第5世代移動通信システム5Gが製造業に与える影響

第5世代移動通信システム5Gが製造業に与える影響

耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか?5Gは現在主流になっているLTEに代わる通信システムとして注目されていますが、具体的に何がどう変わるのか、そして、製造業にはどのような影響があるのか、見えにくい部分もあります。今回のコラムでは、5Gの概要と製造業への影響を紹介します。


5Gとは?

 5Gに関して概要を説明する前にまずは、総務省が作成した下記の3分程度のイメージ動画をご覧ください。


 これらの動画を見ていただければ、「なんとなくすごい技術なんだなあ」というのがご理解いただけるかと思います。この5Gを支えるキーワードは下記3つになります。

 超高速

 超高速というのが一つ目のキーワードです。これは、5GがLTEの後継であることを考えればイメージがつきやすいでしょう。ちなみに、LTEでダウンロードに5分かかる2時間の映画が、5Gであれば3秒でダウンロードすることができるそうです。

 

 超低遅延

 超低遅延というのが二つ目のキーワードです。これは、端末同士がデータやコマンドをやりとりする時間が非常に短縮されるということです。具体的には通信の遅延(タイムラグ)が1000分の1秒以下まで短縮されます。超低遅延によって、遠隔地にあるロボット等をリアルタイムに操作ができるようになりますので、遠隔地での工作機械等の操作や、遠隔治療の実現などが可能になります。また、自動運転においても信頼性の向上が期待されます。

 

 多数同時接続

 三つ目のキーワードは、多数同時接続です。これは、限られた面積内で多くのデバイスが同時に接続できるということです。具体的には、100万台/㎢の同時接続が可能であり、これは、現行の4Gの30~40倍にあたります。多数同時接続により、身の回りにあるあらゆるものを同時にネットワークに接続することが可能になりますので、多数のデバイスから同時に情報収集を行ったり、同時に制御を行ったりすることが可能になります。IoTやスマートファクトリーの実現の後押しとなるでしょう。

 

 5Gの実用時期はいつか?

 近未来を実現可能にする5Gですが、いつ頃から実用化されるのでしょうか。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに加え、楽天の4社が2019年ごろから徐々にサービス化を進め、2020年のオリンピックに合わせて本格的なサービス展開がなされそうです(日経電子版「5G、19年に一部開始 携帯4社が全国展開計画」)。

 さて、ここまで5Gの概要について紹介してきましたが、製造業にはどのような影響があるでしょうか。いくつかの切り口から考察してみます。

 

電子部品の需要がさらに伸びる!

 なんといっても通信や制御に欠かせない「電子部品」の需要が非常に拡大することが推測されます。まず、既存の4G・LTEと5Gでは周波数も規格も異なるので、5Gが本格的に普及していくことになれば、通信を行うための部品が新規に開発されることになります。さらに、5Gの普及により、IoTデバイスや遠隔操作が可能なロボットへの需要が大きくなる可能性が高いことを踏まえれば、電子部品の需要は非常に大きくなるでしょう。
 需要が伸びるということは、調達が難しくなるということです。今後のさらなる調達競争の激化に備えて、前もって対策を行っておくことが重要となるでしょう。

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5Gの応用領域に関連する部品の需要が伸びる?

 総務省が作成した「5Gの利活用分野の考え方」にも書かれているように、5Gは幅広い領域で大きな変化をもたらしますが、最終製品という基準で考えるのであれば、車、産業機器、医療機器、ロボットに大別されるでしょう。今後、これらの製品では5Gの普及に伴い大きなイノベーションが起こり、大規模なリプレイスが発生することが想定されます。これらの製品のサプライチェーンに属する製造業では需要が伸びる可能性が高いので、変化に対応できれば企業が成長する好機となるでしょう。


製造業でのキラーアプリは「スマートファクトリー」となるか?

 総務省では様々な分野で5Gの実証検証に取り組んでいます。平成30年度に実施されている実証検証の中に、「ロボットやセンサーを活用したスマート工場」が含まれています。<総務省ホームページ「5G総合実証試験の実施概要(平成30年度)」>。詳細は公表されていませんが、工場内の大量データを「超高速」に処理し、「超低遅延」と「多数同時接続」を活かして、リアルタイムに複数の産業用ロボットを操作することを目指していると想定されます。ドイツから始まったインダストリー4.0の流れに遅れをとっている日本としては、スマートファクトリーの実現は喫緊の課題と言えるでしょう。

 インダストリー4.0や日本版インダストリー4.0である「コネクテッドインダストリーズ」に関しては下記の記事をご参照ください。

日本版インダストリー4.0『コネクテッドインダストリーズ』は中小企業が主役?

 実証検証の結果に関しては、総務省のホームページや、YouTubeのチャンネルで公開されるでしょうから、結果が楽しみです。

 新たな技術の普及には、その技術の代名詞となるような「キラーアプリ」が不可欠です。製造業での5Gの普及に関しては、スマートファクトリーがキラーアプリとなるでしょう。


 5Gが普及すれば日本の製造業には大きなチャンスが訪れるでしょう。ただし、5Gの実現により同時に接続可能なデバイスの数が増えるということは、セキュリティリスクの増加も引き起こすでしょう。新しい技術がもたらす素晴らしい世界に期待を馳せるだけではなく、想定されるリスクもきちんと評価した上で、競争に勝ち抜くためのアクションを決定していくべきでしょう。

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