日本発!多業界を結ぶデータ連携基盤「ウラノス・エコシステム」とは?

日本発!多業界を結ぶデータ連携基盤「ウラノス・エコシステム」とは?

 ドイツのIndustory4.0に端を発した、世界的なデータ連携基盤構築の動きは新たな段階を迎えています。国内では「Society5.0」、「Connected Industries」を実現するための取り組みが進められてきました。そんな中、経済産業省では2023年4月29日にそういった社会課題の解決に必要な、企業や業界を横断しデータを連携・活用する取り組みの名称を「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」と命名することを決定しました。今回はそのウラノス・エコシステムについてご紹介します。

 

諸外国のデータ連携基盤の取り組み

 世界各国では、データ連携基盤の構築に向けた取り組みが加速しています。
 米国のGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)や中国のBTAJ(Baidu、Alibaba、Tencent、JD.com)のようなメガプラットフォーマーを有する国では、それらの企業を起点とした企業間データ連携が進められ、巨大な経済圏がすでに出来上がっています。国としては民間企業の経済活動を優先しているかたちになりますが、今後は法的なデータ統制や、収集したデータをより公益性が高い取り組みに活用する動きが加速していくとみられます。
 米中のそういった動きに対抗するため、特に欧州では官民一体のデータ連携基盤構築に向けた動きが活発です。例えば、Industory4.0に続きドイツが主導で立ち上げた「Gaia-X」というプロジェクトがあります。これは、欧州域内外のさまざまな業界をまたがるデータ交換を実現するためのデータ基盤を整備するプロジェクトです。加えて、Gaia-Xの取り組みを踏まえた自動車産業におけるデータスペースを構築し、バリューチェーン全体で効率化、最適化、CO2排出量削減等を目標とする自動車産業独自の「Catena-X」というアライアンスも設立されています。
 インドではデジタル化政策「Digital India」の一環で、デジタルインフラである「India Stack(インディア・スタック)」という取り組みがあります。India Stackはすでに送金・決済プラットフォームとしてキャッシュレス決済の拡大に一役買っており、今後も利用が拡大していくとみられます。

このように各国では産業基盤としてデータの重要性が強く認識され、国を挙げた取り組みが進んでいます。
 

ウラノス・エコシステムとは

 「ウラノス・エコシステム」とは、企業や業界、国境を越えて、データを共有して活用するための仕組みについて、アーキテクチャの設計、研究開発・実証、社会実装・普及を行う取り組みの総称です。
 日本も欧州と同様、複数の企業が連携して経済圏を作り上げることを狙いとし、経済産業省では「Connected Industories」の概念を提唱し、官民一体の取り組みを進めてきました。
結果として企業間のデータ共有や連携は少しずつ普及していますが、脱炭素や人手不足の加速、災害の激甚化、グローバルリスクなど、取り巻く環境が変化し、社会課題の解決や上述の諸外国の動きも踏まえた海外のデータ連携基盤との相互運用の調整が求められています。そういった背景から、産学官の専門家が集ってプロジェクトを立ち上げ、データを共有・連携・活用するための仕組み(アーキテクチャ)作りが先行的に進められています。
 来年度には、そのプロジェクトの成果から公益デジタルプラットフォームとしてのサービス提供が一部開始される予定のため、国内外での認知度を高めるべく、それらの取り組みを総称して命名されました。
 意図したかは定かではありませんが、ギリシャ神話のGaia(ガイア)とOuranos(ウラノス)の関係かのように、欧州の取り組みに協調する考えがあるのかもしれません。

   ウラノス・エコシステムの連携イメージ 出典:経済産業省HP

 

ウラノス・エコシステムに関連する具体的な取り組み

 ウラノス・エコシステムの先行的な取り組みとして、具体的には次の2つの領域があります。

人流・物流のDX

 人口減少や少子高齢化が進む日本において、異なる業種や地域、業界のデータを連携し、より効率的な人流・物流の実現が求められています。そこで、経済産業省は約10年にわたる「デジタルライフライン全国総合整備計画」を2023年度内に策定し、自動運転やAIによるイノベーションを社会実装し、人手不足などの社会課題を解決するデジタルとリアルが融合した地域生活圏を形成するとしています。その計画の中で、IPA(情報処理推進機構)が設立したDADC(デジタルアーキテクチャ・デザインセンター)を中心に、先述のプロジェクトの一つとして人流・物流のDX化を実現する仕組みの検討を進めています。
 具体的には、自動運転車やドローン、サービスロボットなどの自律移動ロボットが行き交い、人や物の流れが最適化する仕組みを構築するため、こうしたモビリティが安全かつ経済的に運行できる環境を仮想空間に再現するデジタルツインとして「4次元時空間情報基盤」を構築する取り組みです。
 人流・物流のDX化にはハード(通信網、IoT機器等)、ソフト(データ連携基盤、3D地図等)、ルール(認定制度等)の3つの視点で整備が必要となりますが、4次元時空間情報基盤はソフトに相当する部分になります。このような仕組みを共通プラットフォームとして整備することで、企業が空間に関連する情報を簡単に素早く取り出すことができ、新たなサービスを生み出すきっかけになることも期待されています。
 すでに2023年4月に4次元時空間情報基盤アーキテクチャガイドライン(β版)が公開され、2023年7月には共通ライブラリをOSS(オープンソースソフトウェア)として公開しています。2024年度には先行的に4次元時空間情報基盤を活用した、ドローンによる点検や配送、一部区間における自動運転の実現を目指しているようです。
 

出典:経済産業省「デジタルライフライン全国総合整備実現会議 第1回事務局資料」
 

商流・金流のDX

 企業間取引は紙・FAX・メールといったアナログな方法がいまだに多く残されており、企業の生産性を下げる要因のひとつとなっています。また、受発注のデジタル化ができていても、データ連携の規格が業界や製品ごとにバラバラで、業界横断的なデータ連携や、社会全体でのデータ共有を実現するまでには至っていません。そのため、業界横断的なEDI規格である「中小企業共通EDI」やデジタルインボイスの標準規格「JP PINT」などが整備されてきましたが、受発注、請求など限定された範囲に留まっています。加えて、昨今ではカーボンニュートラルの実現等の世界的要請や、サプライチェーンリスク管理といった社会課題にまつわる企業間のデータ共有の必要性が高まっています。
 そこで、経済産業省とDADCが中心となり、上述の活動も踏まえて契約から決済にわたる取引全体のデジタル化と、カーボンニュートラルや経済安全保障、廃棄ロス削減、トレーサビリティ確保等の社会的課題の解決を目指した包括的な仕組み作りに取り組んでいます。

具体的には以下の業界横断的に取り組むべき課題の解決を目指す「サプライチェーンデータ連携基盤」を構築する取り組みです。

 ①トレーサビリティ管理
 ②開発製造の効率化・活性化
 ③サプライチェーンの強靭化・最適化
 ④経理・財務のデジタル完結
 

出典:独立行政法人情報処理推進機構「第4回企業間取引将来ビジョン検討会 事務局資料」
 
 その中でも、トレーサビリティ管理領域におけるGHG排出量の可視化及び低減、調達先リスクの可視化を目的として、自動車における蓄電池を先行事例とするCFP(カーボンフットプリント*)、DD(デューデリジェンス *)を流通させる仕組みの設計が進んでいます。
*CFP(Carbon Footprint of Products):商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2 に換算して、商品やサービスに分かりやすく表示する仕組み
*DD(Due Diligence):ここでいうDDはサプライチェーンにおける人権・環境リスクへの対応状況に関する帳票

2023年10月にはサプライチェーン上のデータ連携の仕組みに関するガイドライン(蓄電池CFP・DD関係)α版と、データ連携基盤を活用した蓄電池・自動車のカーボンフットプリント(CFP)運用ガイドブックβ版が公開されています。
 

ウラノス・エコシステムの今後

 ウラノス・エコシステムは国を挙げた取り組みのため、その内容は多岐にわたります。ただ、共通していえるのは、産業全体のエコシステムを作り上げることです。
 グローバル化する現代において、欧州の法規制をはじめ、国家間の競争環境は、よりシビアになってきています。その中で、一企業や業界単独で戦うことは難しく、協調できる領域は公的なデジタルインフラとして整備し、企業や業界が競争領域に集中していくことが重要といえるでしょう。また、各国の動向で挙げた通り、データの重要性は高まるばかりであり、グローバル競争を勝ち抜くには、日本全体でのデータ共有とその活用を進めなければならないのは間違いありません。国内外でのデータ連携の取り組みが進められる中で、ウラノス・エコシステムはますます注目される存在になると考えられます。
 今回紹介した人流、物流、商流、金流のDX化の実現にはまだまだ課題は多くありますが、これからは、さらなる制度の整備や別分野での活用が進められていくとみられます。ドローンや自動運転など身近な取り組みで今後耳にすることが増えるかもしれませんが、今後の進展に期待したいところです。

 
株式会社エクスでは、製造業の商流DXを実現するクラウド型EDIサービス『EXtelligence EDIFAS』を提供しています。受発注はもちろんのこと、生産計画や見積、出荷、支給、検収など、製造業が必要とする一連の取引情報をデータでやり取りすることが可能です。電子帳簿保存法にも対応し、経済産業省、中小企業庁が推進するEDI規格「中小企業共通EDI」に準拠したサービスです。企業間取引を一気通貫で電子化したいお客様は、是非EDIFASをご検討ください。

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