インボイス制度が施行される2023年10月1日まで、あとわずかとなりました。
まだ準備が出来ていない企業の中には、インボイス制度に対応したシステムやサービスの導入に「IT導入補助金」の活用を検討している企業も多いかと思います。2023年度のIT導入補助金では、インボイス制度対応に最適な「商流一括インボイス対応類型」が創設されており、IT投資予算が限られる中小企業・小規模事業者にとって有用なのは間違いないでしょう。そのIT導入補助金は8月から新たな事務局が引き継ぐことになり、慌ただしい状況となっています。そこで今回は、事務局変更における注意点と新たに創設された「商流一括インボイス対応類型」についてご紹介します。
年度途中で事務局が変更になるのは極めて異例ですが、2023年8月にIT導入補助金の事務局が以下の通り変更となりました。
前期(2023年7月31日以前):一般社団法人サービスデザイン推進協議会
後期(2023年8月 1日以降):凸版印刷株式会社
中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)の令和4年度第2次補正予算「サービス等生産性向上IT導入支援事業」に係る事務局の公募結果をみるに、以前からIT導入補助金の事務局を担っていたサービスデザイン推進協議会が応募しなかったことが変更理由のようです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構ホームページ
両事務局の役割分担としては、2023年7月31日までに前期事務局で申請の上、採択が決定した事業者は前期事務局が担当し、2023年8月1日以降の申請分は後期事務局が担当するとしています。
出典:IT導入補助金2023(後期事務局設置のお知らせ)
これから補助金の利用を検討される方は、後期事務局が担当することになります。前期事務局と後期事務局でIT導入補助金のサイト自体が異なるため、間違えないように注意しましょう。
前期事務局 ホームページ:https://www.it-hojo.jp/
後期事務局 ホームページ:https://it-shien.smrj.go.jp/
IT導入補助金には、改正電子帳簿保存法やインボイス制度への対応を見据えた「デジタル化基盤導入枠」があります。以前からデジタル化基盤導入枠には「デジタル化基盤導入類型」と「複数社連携IT導入類型」という2つの類型がありましたが、2023年のIT導入補助金では「商流一括インボイス対応類型」が創設されました。
商流一括インボイス対応類型は、インボイス対応に特化した枠として設けられたものです。
取引関係における発注者がインボイス制度に対応したITツール(受発注ソフト)を導入し、受注者である中小企業・小規模事業者などに対して当該ITツールを無償で利用させる(取引先にアカウントなどを供与する)場合に補助対象となります。
デジタル化基盤導入枠の他の類型と「商流一括インボイス対応類型」の違いは下図の通りとなります。
中小企業庁 IT導入補助金チラシをもとに株式会社エクスが作成
大きな違いとしては、従来のIT導入補助金の対象である中小企業・小規模事業者だけでなく、大企業等も対象となる点が挙げられます。
そのほか、商流一括インボイス対応類型ではいくつか注意すべき点があります。
インボイスとなると受注者側が主体でクラウド請求サービスや会計ソフトの導入等を行うケースが多いかと思いますが、本類型では発注者側が起点になることを前提としています。また、受注者側に費用負担させずに利用できるITツールである必要があります。インボイス制度では受注者から発注者に対しての「請求書」のみならず、発注者から受注者への「支払通知書」や「仕入明細書」に相当する情報もインボイスとすることが可能です。よって、発注者側が統一した運用をすることで、各社のインボイス対応の負担を軽減させるといったことも狙いにしていると言えるでしょう。
本事業はあくまで中小企業・小規模事業者がITツールを活用することによって、労働生産性の向上やインボイス対応を促進することが目的です。そのため、厳密に補助対象となるのは中小企業・小規模事業者等が利用する分としています。
一例として、取引先10社との受発注取引をデジタル化するのに10万円の経費が掛かったとしても、10社のうち大企業に該当する企業が2社含まれる場合は、2社を除いた8社分の金額8万円(10万円 × 8/10)が対象経費になるということです。
他の類型ではITツールの組み合わせでの申請、オプションや役務(操作指導や導入支援)も対象経費に含めることができますが、本類型では対象外となります。また、「クラウドサービス」であるITツールに限定されている点も見落としてはいけません。
後期事務局では2023年8月29日から交付申請の受付が開始されています。
しかし、事務局の引き継ぎでかなり立て込んでいるのか、対象となるITツール一覧が不明確な状況です。とはいえ、今後順次登録が進んでいくものと思われます。
なお、現時点で判明している本類型のスケジュールは以下の通りです。
「デジタル化基盤導入類型」の方は12次締切分まで延長されていることやインボイス制度施行による駆け込み需要から、予算の兼ね合い次第では本類型も延長される可能性はあります。最新の状況は後期事務局ホームページをご確認ください。
今回はインボイス対応に最適な「商流一括インボイス対応類型」についてご紹介しました。
新たな類型を設けたのは、より補助金を活用しやすくし、多くの中小企業がITツールによるインボイス制度への対応を進めることを狙いとしているのは間違いありません。それに加えて、企業間のデジタル的なつながり(商流全体のDX化)によって労働生産性の向上を後押ししたいという強いメッセージを感じます。
複数社連携IT導入類型では申請のハードルが高かったり、デジタル化基盤導入類型では会計ソフト等の導入で自社の効率化に留まるなど、企業間のデジタル的なつながりによって生産性を向上させるケースはあまり多くありませんでした。
今回の類型では大企業も対象にし、発注者を起点としたITツール導入ということから、政府や事務局としては、投資体力がある企業が率先して取引先(中小企業・小規模事業者)とのデジタル取引を推し進めることを期待していることが伺えます。
インボイス対応のみならず、発注や納品などの上流も含めた商流全体をDX化することで、個社だけでは限界があった更なる労働生産性の向上を実現できる可能性があります。企業同士のつながり方で価値が決まる時代、こういった補助金を上手く活用して企業競争力を高めましょう。
株式会社エクスでは、IT導入補助金2023のIT導入支援事業者に登録されていますので、お客様のIT導入補助金の活用をご支援いたします。企業間取引のデジタル化においては、デジタル化基盤導入枠でITツールとして登録されているクラウド型EDIサービス「EXtelligence EDIFAS」を提供しています。受発注はもちろんのこと、生産計画や見積、出荷、支給、検収など、一連の取引情報をデータでやり取りすることが可能です。また、「商流一括インボイス対応類型」にも現在ITツール登録申請中です。そのほか、販売・生産管理システム「Factory-ONE 電脳工場」シリーズをはじめ、生産性を向上させる各種ITツールを多数ご用意しておりますので、IT導入補助金の活用を検討されているお客様は、お気軽にご相談ください。
※本コラムは2023年9月13日執筆時点での情報となります。