本記事は「EX在庫診断」と共通です。
在庫推移チャート画面の品目情報から「適正在庫数」や「安全在庫数」にホバリングすると、下の図のように計算式が表示されます。この記事では、それらの計算式について説明します。
❶安全在庫数

❷適正在庫数

①安全在庫数
EX在庫診断及びEX在庫シミュレータでは、安全在庫数を以下の計算式で算出しています。
安全在庫数 = 安全係数 × 1日出庫数の標準偏差× √(実績LTの加重平均 + 発注間隔)
上の式で用いられている指標を順に見ていきましょう。
安全係数
これは欠品をどれほど許容するかという値であり、予測誤差のデータを正規分布とみなした際の標準偏差を用いて算出します。
安全係数=NORMSINV(1-欠品許容率) (NORMSINV: 標準正規分布の累積分布関数の逆関数の値を返すExcel関数です)
NORMSINV関数を用いれば、安全係数は上記の計算式で導出できます。
おおまかな目安はしばしば表になっているので、それを参照するとよいでしょう。
以下に欠品許容率と安全係数の簡単な対応表を掲示します。
| 欠品許容率 | 安全係数 | |||||
| 0.1% | 3.09 | |||||
| 1.0% | 2.33 | |||||
| 2.0% | 2.05 | |||||
| 5.0% | 1.64 | |||||
| 10.0% | 1.28 | |||||
| 20.0% | 0.84 | |||||
1日出庫数の標準偏差
「1日出庫数の標準偏差」は、需要のバラつきを判断するための数値です。
EX在庫診断及びEX在庫シミュレータでは、出荷データから得られた日々の出荷量の標準偏差を取ることでこの数値としています。
1日出庫数の標準偏差=STDEV(日々の出荷量) (STDEV: 標準偏差の推定値を返すExcel関数です。対象の値が、その平均値からどれだけ広い範囲に分布しているかを計測します)
(画面をクリックすると拡大表示します)
上の表をもとに標準偏差を導出する場合、以下のようなパターンが考えられます。
❶休日を含むすべての日付における出荷量の標準偏差
❷休日を除くすべての日付における出荷量の標準偏差
❸出荷があった日付のみの出荷量の標準偏差
上の表を例にそれぞれ求めると、❶42、❷49、❸53となります。(小数点以下四捨五入)
EX在庫診断及びEX在庫シミュレータでは、以下の品目に対応したいとの理由から❷の計算方法を採用しています。
・定期出荷が多い品目 ・出荷数が非常に少なく、出荷量の変動がほとんどない品目 ・出荷数が非常に少なく、出荷量の変動が大きい品目(❸に比べ大きな乖離を避けられる)
休日であるかどうかの判断は、電脳工場のカレンダーマスターに依っています。
カレンダーマスターでは、稼働状況を3種類で表します。( 0.休業 / 1.半日稼働 / 2.全日稼働 )
この標準偏差には注意があります。標準偏差が正規分布に近くなければ、数値の信用度が下がるという点です。したがって、出荷数が多い場合 と 少ない場合がそれぞれ頻発しており、中くらいの数量で出荷することがほぼ無いような場合(分布の山が大きく2つある場合)、1日出庫数の標準偏差の数値はあまり参考になりません。
この問題には、「集計期間」を変更することで計算範囲を調節し、対応してください。
実績LTの加重平均
こちらはEX在庫シミュレータが独自に計算している値です。
『マニュアル ≫ 指標の詳細説明 ≫ 実績LTの加重平均』を参照してください。
発注間隔
定期発注方式を用いる場合における、発注日と次の発注日との間の日数です。
EX在庫診断及びEX在庫シミュレータでは 不定期発注の場合に対応するため、発注間隔を0として計算しています。
計算例
「実績LTの加重平均 = 10」「安全係数 = 1.64(欠品許容率= 5.0%と該当する)」「1日出庫数の標準偏差 = 49」の場合、安全在庫数は以下のように算出されます。
安全係数 × 1日出庫数の標準偏差 × √(実績LTの加重平均 + 発注間隔) = 1.64 × 49 × √(10 + 0) = 254
②適正在庫数
適正在庫数とは、需要やリードタイムに多少の変動があっても対応できるように備える量のことです。
EX在庫診断及びEX在庫シミュレータにおける適正在庫数は、以下の式で求めています。
適正在庫数 = 一定期間の需要数+安全在庫数
安全在庫は本記事で既に述べていますが、それに一定期間の需要数を加えることで適正在庫数とします。
一定期間の需要数は、以下の計算式で算出します。
一定期間の需要数 = 1日出庫数の平均 × 実績LTの加重平均 ※1日出庫数の平均 = 対象品目の在庫受払における合計数 ÷ 集計期間の日数(休日除く) ※以下の条件を適用しています。 ● 受払区分 =「出庫」 ● 在庫管理区分 = 「部材の出庫」「自動引き落とし(MRP版)」「製品の出荷」 ● 在庫締め = 済み ● 在庫受払日が指定した集計期間に属する
なお、基準在庫数と最低在庫数は、電脳工場の品目マスターの同名項目から取得しています。
計算例
下表は電脳工場の在庫受払のデータです。
集計期間 = 1ヶ月(2022/01/03 ~ 2022/02/02)

1日出庫数の平均 = 対象品目の在庫受払(出庫)の合計数 ÷ 集計期間の日数(休日除く)
= (2022/01/03の出庫数 + 2022/01/06の出庫数 + … + 2022/02/02の出庫数) ÷ 集計期間の日数(※休日除く)
= (100+30+50+70+200+75+20+60+100) ÷ 25 = 28.2
実績LTの加重平均 = 10
一定期間の需要数 = 1日出庫数の平均 × 実績LTの加重平均 = 28.2 × 10 = 282
適正在庫数 = 一定期間の需要数+安全在庫数 = 282 + 254 = 536
