一歩、横へ

公開日:2022年3月31日

会社に着いたら自分の椅子に座る。フリーアドレスだとしても、いっときの座席を決めてそこに着席する。ところで、ふと一枚の白紙とペンを渡されて、何も見ずにその机のデザインがどんなふうか書いてみよ、と言われたところでそのケーブル穴の位置や向き、色までを再現することは多くの人にとって困難に違いない。初めての出社日には目に飛び込んできたはずのそれらは脱色されてしまい、もはや自分にとって危険のないものとしてしか経験されない。あそこに置いてある謎の本や通気孔のこと、あるいは壁のシミやカーペットの汚れについて、おそらく長年このオフィスに勤めている人よりも入社してすぐのあなたの方がよく見えていることだろう。
 LoooMsだってそうだ。わたしの場合、Google Chromeを立ち上げたら最初にLoooMsを含むいくつかのページが開かれるように設定してあるので、このオフィスのイメージは、わたしの出勤開始と同時に立ち上がる。そして、席替え(フロアの編集)から時間がたった今は、この調度類の配置にも、隣が○○さんであるということにも、慣れてしまっている。
 さて、LoooMsのフロアは大きく引くことも、拡大することもかなり自由に設計されている。たとえば冒頭に掲げた画像に写っているデスク。PCのキーボードにはちゃんとキーが埋まっていてその粒までがよく見える。いくつあるだろう。普段は見ることのない光景だ。あるいはこちらの4人掛けテーブルにはテーブルクロスと瓶に入ったモンステラの葉が配置されており、ちゃんとテーブルに影を落としている(造花だろうか、水は枯れている)。
LoooMsのようなバーチャルオフィスには風は吹かないし、季節も変わらないので、毎日気に留めることはないかもしれない。でも、実際のオフィスは、あらゆる変化の渦中にある(もちろんビジネス的な意味だけではなく)。わたしたちはLoooMsやそのバーチャルオフィスが映っている画面を眼差すようにして日々を、毎日のようにくるまれているオフィスという経験を順送りにしてはいないか。
 前へ前への意識で働いている合間に、ほんの少し横にずれることができれば、いつもと同じ光景がいつも同じとは限らないということがよく見えてくる……かもしれない。そのヒントのひとつはすごく近くで見ることだ。