近年、「ESG投資」と呼ばれるキーワードを目にすることが多くなりました。
ESG投資は、企業の社会的責任(CSR)を投資の判断材料とする手法「社会的責任投資(SRI)」が発展した投資手法とされています。投資家の中では、もはや当たり前に浸透しているESG投資ですが、中小製造業とどのように関係があるのでしょうか。
今回のコラムでは、ESG投資に対する国内製造業の取り組み事例と、ESG投資の潮流の中、サプライチェーンの一翼を担う中小製造業に、どのように関係があるかを紹介したいと思います。
ESG投資とは単なる財務情報だけではなく、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の観点から企業を評価する投資手法を意味します。
名前の通りですが、それぞれ次のような取り組みが評価対象となります。
Environment(環境) :地球温暖化対策や省エネ、化学物質の管理など
Social(社会) :人権問題、女性の社会進出、ワークライフバランスなど
Governance(企業統治) :法令遵守や社外取締役の採用、情報開示など
従来、企業の社会的責任活動であるCSRに各企業が取り組んできましたが、社会的責任というアバウトなキーワードから、より具体的にカテゴライズされたのがESGです。
2006年に国連が、投資分析と意志決定のプロセスにESGの課題を組み込むことを原則として投資行動を促す「PRI(責任投資原則)」を提唱したことが大きな契機となり、欧米を中心に世界の投資家に浸透していきました。
世界のESG投資の状況をまとめているGSIA(The Global Sustainable Investment Alliance)の報告によると、2016年の世界のESG投資残高は22兆8,910億ドル(日本円で2,500兆!)にも上り、2012年からの推移では、下図の通り4年で約2倍に拡大していることが分かります。
こういった世界的なESG投資の拡大の中、日本はどうでしょうか。
同報告の国・地域別の投資残高を見てみます。
日本のESG投資は全体の2.1%に留まっておりまだまだ低いのが現状のようです。
ただ、世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GRIF)が2015年にPRI(国連責任投資原則)に署名したことが大きなきっかけとなり、現在は徐々に拡大傾向にあります。
また、2018年6月15日に開催された第5回持続可能な開発目標推進本部会議では、国際目標であるSDGsの推進を国家戦略の主軸に据えるということを示しています。(首相官邸)
SDGsの推進には金融面からESG投資が注目されており、今後のESG投資拡大を後押しするものと考えられます。
GSIAのレポートは2年毎に発表されるので、2018年の今年、どれだけ拡大しているか必見です。
では、実際に国内製造業ではESG投資に対してどのように取り組んでいるのでしょうか?
いくつかの企業の事例をご紹介します。
本業の建築機械で、インフラ整備と豊かな生活の実現に貢献する商品やサービスを提供していますが、人事施策では女性社員登用に関する目標を設定、社会貢献活動としては、災害復興支援やカンボジア等の紛争跡地で地雷除去活動等も実施しています。社外的な評価では、ESGについて優れた対応を実践している企業に投資するFTSE Blossom Japan Indexの構成銘柄にもなっています。
アサヒグループの中期経営方針では、3つの重点課題のひとつとしてESGへの取り組み強化を掲げています。環境面では、低炭素社会の構築のため全社でCO2排出量削減に取り組んでいます。また、ダイバーシティをいち早く推進し、女性やシニアの活躍支援、障がい者雇用促進、国境を超えた活躍支援等を実施しています。
東レグループではESGの取り組みとして、3年ごとの中期経営課題とCSRロードマップを設定し、経営戦略とCSRを連動して進めています。特に環境問題や資源・エネルギー問題の解決に資するグリーンイノベーション事業と、医療の質向上、医療現場の負担軽減に貢献するライフイノベーション事業を全社横断PJとして推進しており、SRIインデックスとしてMSCI ESG IndexesやDJSI Asia Pacific等に採用されています。
このほか、ソニーやデンソーなどの国内主要製造業が2020年迄に再生エネルギー電力の使用を2割増加させるという報道もあり、大企業を中心に取り組みが進んでいます。(日経電子版)
国内外の機関投資家がESG投資を重視するということは、遅かれ早かれ上述した企業以外の大手製造業も取り組みを強めていくのは間違いありません。サプライチェーンという観点では、すでに大企業でCSRをマネジネメントするために、調達物の環境性能向上、サプライヤーにおける環境配慮・法令遵守・人権擁護、公正取引の推進などの購買・調達に関する考え方や基準を明確にして実践する「CSR調達」という考え方が浸透しています。
これらの企業では、「CSR調達」をより発展したESGに対応させるためにも、サプライチェーン上のESGリスクマネジメントが重要な課題のひとつとして認識されているのです。その中で、サプライチェーンの一翼を担う中小製造業では、CSR活動に取り組んでいる企業が評価されていくでしょう。
大企業にもいえますが、中小製造業ではBtoCでの商売ではなく、BtoBでの商売がほとんどです。BtoC企業のステークホルダーは社会動静に敏感な「消費者顧客」と「投資家」ですが、BtoB企業のステークホルダーは「投資家」と「従業員」であり、今までBtoC企業ほどCSR活動が重視されていませんでした。さらに、中小製造業ともなると、少ない人員でやりくりしていることから、広報活動にも力を入れられないのが実状です。しかし、逆に言えば、それだけ競合と差別化するチャンスが眠っているといえます。
たとえば、ISO9001及びISO14001の取得や広報活動へ力を入れることにより、上述のような大企業との取引実現・拡大につながる可能性が高いと考えられますので、これを機にESGに取り組まれてはいかがでしょうか。
また、ESGにおける法令遵守という観点では、取引の透明性を担保する上でITツールの活用も有効です。弊社が提供しているようなクラウドEDIサービスを利用することで、下請法違反の防止にも役立てられるかもしれません。
発注業務にEDIを導入するメリットについてはこちらの記事をご覧ください。
いかがでしたでしょうか。国内外企業へのESG投資は大幅な増加傾向にあり、今後間違いなく注目されるキーワードのひとつです。中小製造業においても無関係と考えず、アンテナを張ってみてはいかがでしょうか。