中小企業白書2023からみる製造業の生き残り戦略

中小企業白書2023からみる製造業の生き残り戦略

 中小企業庁は4月28日、2023年版 中小企業白書 (令和4年度中小企業の動向および令和5年度中小企業施策)を公開しました。2023年版中小企業白書では、新型コロナや物価高騰、深刻な人手不足など、中小企業・小規模事業者は引き続き厳しい状況にあるとしたうえで、このようなマクロ経済環境が激変する時代を乗り越えるために、中小企業・小規模事業者はどのような事に取り組むべきか示されています。今回のコラムでは中小製造業の観点から、このような経済環境の変化の中で生き抜くためにはどのようなことに取り組むべきか、中小企業白書からそのヒントを読み取ります。

 

中小企業・小規模事業者を取り巻く市場動向

 まず、中小企業の売上高の動向を見てみましょう。コロナ禍からの社会経済活動の正常化が進んでいることもあり、中小企業の売上高は感染症流行前の水準に戻りつつあります。ただ、これからコロナ関連融資の返済を開始する企業も多く、収益力改善に引き続き取り組んでいかなければならないでしょう。

出典:経済産業省 中小企業庁「2023年版中小企業白書 概要」 【総論①】中小企業・小規模事業者の動向(足下における現状認識)

 続いて、中小企業・小規模事業者に大きな影響を与えているとして、大きく課題視されている物価高騰・人手不足の実状はどうでしょうか?
 物価高騰については、物価指数の推移をみると、急激な上昇傾向にあることがわかります。物価が高騰すれば当然企業支出も増え、収益減少につながります。エネルギー・原材料価格の高騰による企業業績への影響のアンケート調査をみると、2020年時点では過半数が「影響が無い」と回答しているのに対して、2022年には6割以上が「マイナスになっている」と回答しており、収益へのダメージが伺えます。


出典:経済産業省 中小企業庁「2023年版中小企業白書 概要」【総論④⑤】中小企業・小規模事業者の動向(物価高騰)

 物価高騰への対応策として最も多いのは値上げです。その他にも、人件費以外の経費削減や、業務効率化による収益力向上に取り組む動きもあります。


出典:経済産業省 中小企業庁「2023年版中小企業白書 概要」【総論⑤】中小企業・小規模事業者の動向(物価高騰)

 では、人手不足の状況はどうでしょうか。やはり、深刻な人手不足や労働時間の制約といった課題に多くの企業が直面しているようです。これまでも少子高齢化などで着々と進行していた人手不足ですが、2020年ごろから多くの業種で、より急速に人手不足が進んでいます。また、36協定をはじめとした労働時間の制約もあり、一人当たりの労働時間を増やすことも難しいのが実態です。


出典:経済産業省 中小企業庁「2023年版中小企業白書 概要」【総論⑥】中小企業・小規模事業者の動向(人手不足)

 人手不足への対応策としては、人材採用を増やすだけではなく、業務の省力化や効率化に投資する動きも見られます。業務プロセスの見直しやIT化・デジタル化による生産性向上に取り組む企業も増えている状況です。また、人手が離れないような施策として、給与の引き上げや職場環境の改善などの魅力向上に取り組む動きもあります。


出典:経済産業省 中小企業庁「2023年版中小企業白書 概要」【総論⑦⑧】中小企業・小規模事業者の動向(人手不足)

 以上のように、物価高騰を始めとしてマクロ経済環境が急速に変化しており、収益減少などの大きな影響を受けています。また、これらの影響を受けて、中小企業・小規模事業者では様々な対策を講じていることも見て取れます。

 2023年版中小企業白書の総則では、マクロ経済環境が激変する時代を乗り越えるためには、中小企業・小規模事業者が価格転嫁に加えて、「国内投資の拡大、イノベーションの加速、賃上げ・所得の向上の3つの好循環」を実現していくことが重要であると述べられています。具体的には、下記の3点が挙げられています。

(1) 賃上げを促進する上では、価格転嫁と生産性向上が重要であること
(2) 物価高等のマクロ経済環境の変化を踏まえ、価格転嫁を取引慣行として定着させることが重要であること
(3) 生産性向上に向けては、GXやDXといった構造変化も新たな挑戦の機会と捉えながら、投資の拡大やイノベーションの実現が重要であること

 

中小製造業の視点で考える生き残り施策

 上記で見てきた通り、中小企業はマクロ経済環境の激変に大きな影響を受けています。製造業も例外ではありません。総則では、価格転嫁や生産性向上などが重要と述べられていますが、中小製造業視点からどのような取り組みが重要か掘り下げていきます。

 価格転嫁実現のポイント

 中小製造業もやはり原価高騰では大きな影響を受けており、コスト増大によって価格転嫁に踏み出す企業が増えていますが、厳しい事業環境や取引先との力関係、従来の商習慣で価格転嫁できていない企業が多いのも実状です。


出典:経済産業省 中小企業庁「2023年版中小企業白書 概要」【総論⑫】中小企業・小規模事業者の動向(価格転嫁)

 それでは、どのように適正な価格転嫁を実現すればよいのでしょうか。まずは、価格転嫁の根拠となる原価の管理・見える化が大切です。これを達成する鍵はデジタル化です。原価管理をデジタル化することで、製品ごとの採算やボトルネックとなるコスト要因の分析が可能となり、価格転嫁における適正な値上げ価格の考慮に役立てることができます。加えて、正確な原価管理ができれば、取引先との価格交渉や関連情報の開示等も円滑に行え、価格転嫁を取引慣行として定着させることも不可能ではありません。
 
 また、デジタル化する分野を原価管理のみならず業務全体に広げることで、デジタル化によるビジネスモデルの変革、いわゆるDXにも繋げられます。製造業においては「製造業のサービス化」がその代表例です。モノの利用状況をモニタリングしメンテナンスするサービスや、モノの最適な活用方法をソリューション提案するサービスなど、製品の機能的価値ではなく、顧客が製品を使用する際に生じる体験価値や使用価値を提供することを指しますが、こういったビジネスモデルの変革で競合他社には提供できない価値を創出することが価格決定力の向上につながります。

 そして、このようなDXを実現するには、業務全体のシステム化と業務の抜本的な見直しが不可欠ですが、業務管理システムについては、「2025年の崖」として問題視されている通り、老朽化やブラックボックス化が懸念されるレガシーシステムから脱却することが急務です。「2025年の崖」については、過去のコラムもご覧ください。

「2025年の崖」中小企業への影響と対策

 生産性向上のポイント

 物価高や人手不足といった中小製造業が直面する経営課題へ対応するためには、生産性の向上も当然重要となります。生産性向上のためには先述の価格転嫁をすることが重要ではありますが、生産性向上を狙いとした設備投資も不可欠であることは間違いありません。
 実際、2023年度の国内設備投資は過去最高水準の100兆円と見込まれており、中小企業の設備投資額も増加傾向にあります。また、中小企業における今後の設備投資の目的は、「維持更新」より「生産能力の拡大」や「製品・サービスの質的向上」、「情報化への対応」や「省力化・合理化」の優先度が上がっていると見て取れます。


出典:経済産業省 中小企業庁「2023年版中小企業白書 概要」【総論⑬】中小企業・小規模事業者の動向(設備投資)

 それらを目的とした設備投資とは、単なる新しい生産設備(機械)の購入や、工場の拡張といったことだけではなく、中小企業でも比較的取り組みやすいデジタル化へのIT投資がポイントです。業務管理システムの刷新による情報武装や企業間取引のペーパレス化、DXの実現など、デジタル化による生産性向上効果は多岐にわたります。

 加えて、国際的・社会的には「カーボンニュートラル」や「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」への注目度が高まっています。2023年版中小企業白書によると、中小企業の事業方針上、「カーボンニュートラル」の優先度が高まるなど、大手企業をサポートする形で中小企業も社会的要求に対応していく企業が増えています。


出典:経済産業省 中小企業庁「2023年版中小企業白書 概要」【総論⑯】中小企業・小規模事業者の動向(GX)

 一方で、実際にそういった社会的要求に応えられる体力がある企業は少ないかもしれません。しかし、デジタル化により生産性を向上できれば、余力を生み出すことができます。そして、生まれた余力でカーボンニュートラルやGX、イノベーションにチャレンジすることが、大手企業などとの新たな取引を増やす商機となります。
 このように、デジタル化による生産性の向上は、単に目の前の業務を楽にするだけではなく、市場で生き残るための重要な戦略と捉えることが肝要です。このようなデジタル化の流れに遅れてしまうと、競争力、企業価値の低下に繋がるため、積極的なIT投資が求められているのです。

 

まとめ

 今回は2023年版中小企業白書から中小製造業が生き残るために必要な取り組みを考えてきました。新型コロナや物価高騰、深刻な人手不足など、中小企業・小規模事業者が厳しい状況を生き抜くためには、価格転嫁や生産性向上が重要です。これらを実現するためにはIT投資によるデジタル化が必要になります。デジタル化・DXを推進して、物価高騰や人手不足を乗り越え、自社にしか提供できない価値を創出して他社との差別化を図り、激動の時代を生き残りましょう。
 エクスでは、デジタル取引を実現するEDIサービス「EXtelligence EDIFAS」や、製造業の生産管理や販売管理のシステム化を実現する生産管理・販売管理システム「Factory-ONE 電脳工場シリーズ」、その他様々なDX関連サービスを取り扱っています。デジタル化・DXをご検討されている企業様はお気軽にご相談ください。

Share this...
Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn