2018年版「中小企業白書」からみる製造業の生産性革命

2018年版「中小企業白書」からみる製造業の生産性革命

4月20日に中小企業庁が2018年版「中小企業白書」を公表しました。
今年の白書は「深刻化する人手不足と生産性革命」を大きなテーマとして、生産性向上の取り組みについて昨年比倍以上の113事例が盛り込まれており、より実践的な内容となっています。白書では、堅調に中小企業の景況感は改善傾向であるが、さまざまな課題が残っているとしています。今回は製造業にフォーカスを当て、白書が指摘する現状の課題と生産性革命のポイントを取り上げます。

 

景況改善でバブル期並みに推移しているが労働生産性はいまだ低水準

白書によると、経常利益は建設業を除いた全ての業種で過去最高水準であり、下図の通り、回復基調となった2014年からはバブル期とほぼ同水準で推移しています。

(出典:経済産業省 中小企業庁 2018年版「中小企業白書」「小規模企業白書」概要

一方、日本の製造業の生産性は低いと言われて久しいですが、今回の白書からも残念ながら労働生産性の改善が充分に進んでいないことがわかります。

(出典:経済産業省 中小企業庁 2018年版「中小企業白書」 第1部 平成29年度の中小企業の動向 第3章 中小企業の労働生産性

また、白書では経常利益、生産性ともに大企業と中小企業の格差は広がる傾向にあることを指摘しています。
特に製造業では、ここ10年の生産性変化について「衰退」傾向にある企業が多いとの統計もありました。「衰退」は、従業員数の減少率以上に付加価値額の減少率が大きく、労働生産性が低下している領域で、製造業では他産業と比較して、ここ10年では衰退傾向にある企業が多く存在すると考えられます。下図は2006年から10年間における企業の従業員数と付加価値額から、労働生産性の変化を分析しています。

(出典:経済産業省 中小企業庁 2018年版「中小企業白書」第1部 平成29年度の中小企業の動向 第3章 中小企業の労働生産性

このような状況の中、製造業では、より生産性向上の取り組みが重要であるといえます。

 

深刻化する人手不足を解決する生産性革命のポイント

深刻化する人手不足の現状については本コラムで取り上げるまでもなく、多くの人が実感しているところでしょう。白書では、中小企業における生産性革命の手立てとして次の5つをポイントに挙げています。

①多能工化、兼任化などの人材活用の工夫
②業務プロセスの見直し
③攻めのIT利活用
④省力化等の前向きな設備投資
⑤事業継承や付加価値向上にM&Aの活用

特に人手不足が増加している製造業では、他の産業と比較して管理部門や設計部門が現場に出たりするなど、①の多能工化、兼任化は積極的に行われていますが、そのほかの取り組みはまだまだ不十分です。特にIT利活用の重要性は論を待ちませんが、次項ではITの利活用が密接に関係する生産性革命のポイントについて重点的に紹介します。

 

IT導入には業務プロセスの見直しが大前提

白書では、実際に業務プロセスの見直しを実施した製造企業のうち約70%の企業は人材不足や生産性向上に効果があったことを実感しているとしています。ほかの生産性革命の手立てである設備投資やIT利活用も、業務プロセスの見直しと合わせて実施することで、より生産性向上効果が期待できます。
特に、弊社のコラム 『変革の時代、いまこそ求められるITモダナイゼーション』でも触れましたが、IT導入等を行う上では、業務プロセスの見直しは生産性向上の大前提と指摘しています。
実際、業務見直しと合わせてIT導入を実施したことにより生産性が向上した企業の割合は、下図の通り未実施の企業と比較して約1.6倍もあり、その有効性は間違いないでしょう。

(出典:経済産業省 中小企業庁 2018年版「中小企業白書」第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命 第2章 生産性向上の鍵となる業務プロセスの見直し

 

“つながる”IT利活用が鍵

今回の白書では業務領域や企業の枠を超えて連携する生産性向上効果について触れています。政府が打ち出しているコネクテッドインダストリーズでも”つながる”ことを後押ししているとおり、生産性向上にはあらゆる面で“つながる”ことが重要といえます。

コネクテッドインダストリーズについては下記コラムをご覧ください。

日本版インダストリー4.0『コネクテッドインダストリーズ』は中小企業が主役?

特に企業間連携の有無別生産性(一人当たりの売上高)では、下図の通り明確に差が出ており、企業間連携が重要であることの証左といえるでしょう。

(出典:経済産業省 中小企業庁 2018年版「中小企業白書」第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命 第4章 IT利活用による労働生産性の向上

”つながる”を実現するためにはIT利活用が不可欠ですが、製造業においては、コラム「中小製造業はEDIを利用しているか?」でご紹介したように、企業間連携におけるIT活用は不十分な状況です。上述の通り生産性向上に寄与することは間違いありませんので、積極的な取り組みが期待されます。
中小製造業のEDI利用実態については下記コラムをご覧ください。

中小製造業はEDIを利用しているか?

 

省力化等の前向きな設備投資が生産性向上につながる

白書では、製造業の設備投資は緩やかな増加傾向にあるとしています。
しかし、中小企業の設備投資の目的をみると、設備の老朽化から維持更新を目的とした設備投資は増えているものの、逆に生産能力の拡大や省力合理化に向けた設備投資は進んでいません。

(出典:経済産業省 中小企業庁 2018年版「中小企業白書」第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命 第5章 設備投資による労働生産性の向上

生産性向上やIoTを活用した製造業のサービス化への転換には、前向きな設備投資が不可欠です。
白書の事例では、金属鋳造の量産事業を営むコイワイ社が、大型部品鋳造工程に生産ロボットを導入することで、生産性が2~3倍、他のラインと比較して不良率が10%ほど低減するなど、大きな効果を上げたことを紹介しています。
補助金などを活用すれば投資費用も抑制することができるので、同社のように生産性向上につながる積極的な設備投資に取り組まれてはいかがでしょうか。

 

白書では、良好な経済環境に対し、先行きの不安感からIT投資、設備投資に力強さが欠けていると指摘しています。日本の国力の根幹である製造業の99%を占める中小企業が生産性向上に取り組むことで、日本全体の好循環が生まれ、収益拡大につながるのではないでしょうか。

弊社でもIT導入のご相談を受付けていますので、お気軽にお問い合わせください。

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