経済産業省が毎年刊行している「製造基盤白書」(ものづくり白書)が今年も刊行されています。2019年版ものづくり白書では、「第四次産業革命の進展」、「グローバル化の展開と保護主義の高まり」、「ソーシャルビジネスの加速」が主題であり、グローバル化の激流の中での日本の製造業の現状と課題、そして競争力をつける方策が記載されています。
日本の製造業の現状と課題は様々ですが、今回は、2019年版ものづくり白書で言及されている中でも今後特に重要なテーマとなる「技能継承」に焦点を当てたいと思います。
2019年版ものづくり白書によると、ものづくり産業における技能継承問題は、昨日今日の話ではないことが記述されています。団塊の世代が60歳を迎えた時の「2007年問題」、65歳を迎えた時の「2012年問題」と、周期的に技能継承は世間の話題となってきました。しかし、ここ最近、かつて以上に「技能継承」が注目を集めているようです。
例えば、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)による「ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査」では、製造業の約94%が技能継承を重要と感じていることが明らかになっています。このように「技能継承」への認識が高まる一方で、同調査では、8割以上もの企業が技能継承に不安を感じていることが明らかにされています。
また、厚生労働省「平成30年度能力開発基本調査」でも、技能継承に問題のある事業所として製造業では86.5%が当てはまるなど、製造業の技能継承に課題があることは自明でしょう。
2019年版ものづくり白書(経済産業省)では、「AIによる技能継承」や「AR技術を用いた技能継承」の具体例が紹介されています。「AIによる技能継承」では、株式会社LIGHTzによる、AIのニューラルネットワーク技術を用いた熟練者の知見のデジタル化が紹介されています。また「AR技術を用いた技能継承」では、東京都にある職業能力開発総合大学校によって開発された建築施工実習用教材の事例が挙げられています。建築分野の施工実習において完成モデルをARで映し出し、初心者でも熟練技能者が見ている世界を体験しながら作業ができるというものです。
製造業における技能継承の現状と課題、そして各企業の「見える化」への取り組みを見てきました。熟練者の技能の継承は、今後、企業が持続的に事業を進める上で大変重要なものに違いはないですが、中小企業においては熟練者の技能を超えた、より広い視野での「継承」を考える必要があります。
現在、中小企業においては、業務が特定の担当者に集中している状態が多々存在しています。この状況下では、日常業務のレベルで担当者にしかできない業務、すなわち属人化している業務が多く発生している可能性があります。よって、熟練者のみならず、担当者の不在によっても業務の継続が困難になってしまいます。
このような状況を考慮すると、中小企業が今後安定して事業を継続する上では、熟練者の技能継承のみならず、「日常業務の継承」も必要となり、各企業にとって何らかの取り組みを進めるのが得策であると考えられます。
しかしながら、慢性的な人手不足等が起因し、熟練者の技能の継承でさえも十分とはいえない中小製造業の企業が、日常業務の継承に関して新たな人手と時間の確保をするのは現実的ではありません。ですので、技能の受け手の有無に関わらず技能継承をできる仕組みを考える必要があります。
以上のことから、本コラムが1つの手段としてご提案するのが、RPAを用いた業務の自動化です。RPAに関しましては、何度も本コラムの別記事でご紹介してきましたので、そちらをご覧ください。
人による業務をRPAに継承すれば、担当者が不在の間でも自動で業務を実行されるように環境を整えることができます。新たな人材を採用せずに技能継承が行える、継承後はRPAが自動で業務を行ってくれるという点から、現在の中小企業における日常業務レベルの技能継承において、RPAは最適なソリューションであると考えられます。