近年、「シェアリングエコノミー」関連のサービスが非常に注目を集めています。
「シェアリングエコノミー」とは、名前の通り、個人や企業が保有している資産(モノ、空間、移動、スキルなど)の貸し出し、貸し出しを支援するサービスを利用することによる経済圏(共有経済)をいいます。C2Cの世界では、uberやタイムズカーに代表されるカーシェアリング、規制が緩和され広がった民泊など、シェアリングサービスはかなり身近になってきているといえるでしょう。そんなシェアリングエコノミーが、B2Bの世界、製造業においても広がりを見せつつあります。今回は、製造業でのシェアリングエコノミーの現状とこれからについてご紹介します。
経済産業省が昨年 12 月に実施したアンケートによると、製造業の94%の企業が人材確保に課題があると回答しており、製造業の人手不足が深刻化しています。その一方、遊休設備の活用に悩む企業は少なくありません。たとえば、昨今の品質偽装問題から品質要求が厳しくなり、要求に対応する設備を購入したものの、その取引先からの注文が減少して遊休設備化してしまった、自社の技能人材が少なく設備はあっても使えていない状況になっている、繁忙期に備えて設備を新たに購入したがピークを過ぎると稼働率が低い、といった声をよく聞きます。大手企業においても閉鎖した工場を売り出したり、敷地の一部を貸し出したりするなど有効活用法を模索しています。
工場における設備は生産性向上に大幅に寄与する反面、上述のようなリスクを内包しています。遊休設備をうまく活用できなければ、単に固定資産税の支払いに追われるだけとなりますので、製造業企業にとっては頭が痛い課題といえます。
そんな中、製造業向けに面白いシェアリングサービスを提供するスタートアップ企業が増えています。最近では、セラミックス大手の日本特殊陶業が「シェアリングファクトリー」という新会社を設立しました。シェアリングファクトリーでは、設備・計測器を企業間で貸し借りできるインターネットサービスを展開しています。また、2018年3月に設立されたAnybleでは、Ekuipp(エクイップ)という企業間で中古計測器・測定器の売買およびレンタルができるプラットフォームのβ版の提供を2018年4月に開始しました。
製造業では、試作、実験、評価などに使用した高額な計測器・測定器が放置されていることが多くあります。いずれのサービスも、特にそんな計測器・測定器を融通し合うことで余計な支出を抑えることになり、提供者と利用者にとってWin-Winの関係を築けるものだと考えられます。
このほか海外の例では、中国の深センにある「Mould Lao众創空間」がシェアファクトリーを運営している取り組みがあります。Mould laoのシェアファクトリーでは、数十社の零細企業が工場のスペース、設備から従業員にいたるまでシェアし、各社はその使用料を支払うことで効率的に少量生産を可能とし、柔軟なモノづくりのあり方を実現しています。
しかし、先述のようなサービスを提供する企業が出てきたものの、製造業のシェアリングサービス利用は限定的であると考えられます。例えば設備の共有といっても、設備の情報は本来企業にとって重要機密のひとつです。そんな設備の情報を共有することに抵抗感を持つ企業は少なくありません。また、自社の拠点間でさえ稼働状況の共有を嫌がる人もいる中、ましてや、対外的に遊休設備を見せるなんて面子的に許されないと考える企業もあるでしょう。逆に利用者にとっても、設備を借りて利用する際には、加工条件、検査内容など自社の機密情報が漏れる可能性があり、利用企業、提供企業で強い信頼関係が必要になります。
新たに起業を考えるスタートアップ企業や、そんなことを言っていられない零細・中小企業にとってシェアリングサービスは有効と考えられますが、中堅以上の企業では課題は多いのが実状といえます。
昨年のニュースにはなりますが、日立製作所がドイツのフラウンホーファ研究機構製造技術・自動化研究所、およびハンガリー科学アカデミー計算機自動化研究所との共同研究により、企業間で生産管理システムと生産設備をセキュアに接続する技術を開発したと発表しました。
日立製作所では、「クラウドマニュファクチャリング」と呼ばれる、インターネットで工場の設備をつなぎ、生産設備の利用権を必要なときに必要なだけ融通し合うことで顧客ニーズの対応と高生産性を実現する仕組みに取り組んでおり、今回の発表はその実現性を示すものです。ポイントは、設備利用者の重要情報(数量、加工条件など)を秘匿して設備に情報送信され生産し、生産終了後はその重要情報が削除される点です。この技術では、先述の課題のひとつに挙げた利用者にとってどんな製品をどんな条件で作ったかという重要情報が秘匿されるため、単なるモノのシェアリングだけではなく、日本が目指すコネクテッドインダストリーズで重要なファクターである工場設備の連携、自動化の実現に、大きな可能性を感じるものであります。
コネクテッドインダストリーズについてはこちらのコラムを御覧ください。
シェアリングエコノミーが製造業に拡大することで、自社の設備購入計画や、設備負荷を考慮した生産計画の立案などの根本的な見直し、ファブレス生産をメインにした企業の増加など、ビジネスモデルを革新する可能性を多く秘めています。製造業向けシェアリングサービスとして提供している企業はまだまだ数は少ないですが、遊休設備の負担が大きい中小企業ではサービスの恩恵を受ける可能性が高いと考えられますので、今後も注目してはいかがでしょうか。