「製造業のサービス化」の最前線を追う

「製造業のサービス化」の最前線を追う

近年、インダストリー4.0やコネクティッドインダストリーズに象徴される新たな産業革命により、製造業のサービス化の動きが加速しています。今回のコラムでは、サービス化に取り組む先進的な企業の事例を見ながら、製造業のサービス化の最前線を追います。

 

製造業のサービス化はビジネスモデルの変革

 まず、製造業のサービス化といっても、何をもってサービス化といえるのでしょうか。
諸説ありますが、ここでは大きく次の2つで分類します。

①モノに関連するサービスを提供する
②モノづくり自体をサービスとして提供する

 ①は「モノからコトへ」というキーワードに代表される、製品の機能的価値ではなく、顧客が製品を使用する際に生じる体験価値や使用価値を提供することを意味します。
 ①は、さらにアフターサービス系とソリューション系に分類されます。アフターサービス系ではモノの利用状況をモニタリングし、メンテナンスするサービスの提供が挙げられます。ソリューション系ではモノの利用シーンを創出し、最適な活用方法をソリューション提案するサービスなどが挙げられます。

 ②はEMS(Electronics Manufacturing Service)に代表される、製造現場が得意としてきた現場力をサービスとして提供する製造受託開発などが該当します。製造受託はともすれば、ただの下請けになりかねませんが、新興国には真似出来ない、企画・生産設計領域も含めた提案を行うことで、付加価値を高めるモデルです。

 いずれも製品単体の提供だけでなく、ノウハウやデータを活用した知見といった形のないものを価値として提供していることが、従来のビジネスモデルとの違いです。これらの実現には、従来の組織構造や企業間の関係性、マネジメントを抜本的に変えなければなりません。
すなわち、製造業のサービス化はビジネスモデルの変革の実現に他ならないのです。

 

製造業のサービス化の事例

先述の分類からサービス化に成功している企業を見てみましょう。

①モノに関連するサービスを提供する

■アフターサービス系

・コマツ建機販売

 建設機械メーカーであるコマツは、「KOMTRAX」という建設機械に蓄積される膨大な情報を遠隔で確認するシステムを搭載しています。
KOMTRAXにより建設機械の位置状況や稼働状況、省エネ運転状況、オイル交換時期といったさまざまな情報をインターネットを通じて顧客に提供します。このサービスにより顧客のリピート購入率の引き上げや、新たな有償保守契約の商品化を実現しています。

・ヤンマー

 同社はさまざまな事業展開をしていますが、特にアグリ分野でサービス化を成功させています。同社が販売する農業機械には、その機械を見守る「スマートアシスト」というIoTサービスを搭載しています。KOMTRAX同様、農業機械から発信される稼働状況、位置情報、コンディション情報などを顧客に提供します。特徴的なのは、監視サービスだけではなく、作付けしている作物・品種や、使用した農薬・肥料の使用履歴、作業日報といった営農に関する情報も管理でき、生産性の向上にも役立てられることです。

■ソリューションサービス系

・ブリヂストン

 グローバルタイヤメーカーである同社は、「Tirematics」というデジタルツールを展開しています。Tirematicsではタイヤ空気圧モニタリングシステム(TPMS:Tire Pressure Monitoring System)で計測したタイヤの空気圧と温度の情報を遠隔モニタリングすることができます。最近では「Tirematics」をさらに発展させ「リアルタイムモニタリング」サービスの提供も開始しました。
「リアルタイムモニタリング」では、TRMSで計測したタイヤの空気圧、温度等の情報を元に、異常を検知した際には、車両管理者及びドライバーに自動で通知し、タイヤ故障による予期せぬ運行トラブルを未然に防ぐことが可能となります。

②モノづくり自体をサービスとして提供する

・沖電気工業

 同社は2002年からEMS事業を開始しており、その事業モデルを「Advanced M&EMS」と呼んでいます。単なる製造受託のみのEMSではなく、企画や設計から一貫してサポートできることや、「ステージングサービス」と呼ばれる輸入機器の検査業務などを展開することで顧客に深く関わり、事業領域を拡大していくモデルを確立しています。

 上記で紹介した企業も元々は単にモノだけを販売していました。しかし、上記のようなサービスの提供により、他社との差別化を図り、追従を許さない立場に上り詰めているのです。

 

製造業全体の取り組みは徐々に進んでいる

 先述の事例のとおり、モノに関連するサービスを提供するにはIT投資が不可欠ですが、最近の経済産業省の調査を見ますと、製造業のIT投資の取り組みは次のようになっています。

出典:経済産業省「情報処理実態調査 平成28年調査関係資料」を株式会社エクスにて再編加工
http://www.meti.go.jp/statistics/zyo/zyouhou/result-2/h28jyojitsu.html

 多くの企業は、ITを使ってどのように業務効率化やコスト削減につなげるかといった取り組みにとどまっていますが、従来と比較して業務プロセスやビジネスモデルの刷新に取り組む企業が増えてきました。しかし、サービス化の取り組みは事例で紹介したような大手企業が中心であり、ヒト、モノ、カネの経営資源が不足している中小製造業ではまだまだ時間が掛かるでしょう。

 

 いかがでしたでしょうか?今後、IoTの普及、AI技術の発展により製造業のサービス化の動きはより一層加速していくでしょう。そのため、モノ単体で勝負する企業は、これからの時代、苦戦を強いられることは必至です。これからの潮流を生き抜くためにも、自社のビジネスモデルの革新を見据えたIT投資が重要です。

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