2019年6月11日に「ものづくり白書2019(製造基盤白書)」が公開されました。前回のものづくり白書2018では、第4次産業革命が到来する中、我が国のものづくり企業が直面する課題は深刻であり、危機感を持った現場力の再構築やConnected Industries の推進こそが進むべき道であるという方向性を打ち出しました。今回の ものづくり白書2019 では、足元の環境変化を踏まえ、具体的にどういった方策をとるべきか提起しています。
今回のコラムでは、ものづくり白書2019の概要と、ITの利活用の観点で中小製造業が始めるべき取り組みを紹介します。
白書によれば、2012年12月以降緩やかな回復が続いているものの、足元の売上高や営業利益水準や今後の見通しには弱さがみられるとしています。この辺りは、製造業の大多数を占める中小製造業が今後に備えて慎重な判断をしていると考えられます。
出典:経済産業省「2019年度ものづくり白書」概要
一方、人材不足はますます深刻化しています。下図の通り、特に技能人材が不足してビジネスに影響が出るレベルで人手不足が拡大しているようです。
出典:経済産業省「2019年度ものづくり白書」概要
国外に目を向けると、グローバル化が進む一方、米中対立、英国のEU離脱など保護主義の高まりにより、より一層リスク管理が求められています。そして、ドイツのIndustory4.0を契機とした第4次産業革命が進展し、AI・IoT等の技術革新によるスマートファクトリー化や、シェアリングエコノミーをはじめとする従来のものづくりの範囲を超える産業構造の抜本的変化が起こりつつあります。さらに、SDGsをはじめとした世界の社会的課題解決のテーマに対するニーズの高まり、そういった企業を評価するESG投資の拡大なども見逃せません。こういった環境変化の中、人材不足が顕著な中小製造業にとっては非常に舵取りが難しい時代になっているといえます。
昨今の世界的な潮流が中小製造業にどう影響するか、もっと詳しく知りたい方はこちらのコラムもご覧ください。
上述の状況から、ものづくり白書では競争力強化に向けて次の4つの方策を提言しています。
デジタル化による現場におけるコスト圧縮だけでなく、バリューチェーン全体を見据えたデータ活用が必要不可欠。日本特有の精微なものづくりと、製品にまつわる良質なデータを融合させ、他国に先んじて新たなニーズに対応したビジネスモデルを確立するべき。
我が国には、高度な部素材について世界で60%以上のシェアを持つ企業が複数あり、技術力、現場力に裏付けされた品質が評価されている。現状に慢心することなく更なるシェア拡大の取り組みが求められる。
第4次産業革命において必要となる製造×AI・IoTのスキル人材の育成・確保は引き続き重要。単に育てるだけでなく、受け入れる企業側が彼らの活躍できる場や組織づくりを実現できるかどうかが成否を分ける鍵。
AI・IoTをはじめとした技術革新により、従来は人でしかできなかった作業が効率的に実施できる事例が拡大している。品質管理の不適切事案(偽装問題)への対応策などにもデジタル化は有効。また、今後は人手確保がより困難になる見込みであり、これを追い風に変えて、現場の徹底的な省力化を推進し、生産性の向上を図ることが必要。
いずれも中小製造業にとって非常に高度な取り組みが求められているように思われます。
中小製造業ができることは何でしょうか。
人員が限られる中小製造業ではできることも限られています。人材育成、人材確保の取り組みはもちろんのこと、限られた人員の中で「生産性の向上」や「ビジネスモデルの変革」に取り組まなければなりません。その中でITの活用は有効な手段です。白書の調査でも下図の通り、営業利益が増加した理由として設備投資やIT活用による生産性の向上を挙げる企業が3割近くに上るとしており、省人化・自動化による人手不足に対応するためにも、更なる設備投資やIT活用が不可欠としています。
出典:経済産業省「2019年度ものづくり白書」第2章 第3節 世界で勝ち切るための戦略
具体的なIT活用として、先述の人材不足の実状や強みとしている現場力を鑑みると、製造・生産現場の技能のデジタル化が望ましいですが、現場の強みが弱みとならないように留意が必要です。というのも、従来、製造現場のノウハウ(技能)は暗黙知であり属人化していたことから、現在のスキル人材不足や技能承継問題が発生しました。これは、組織という観点で見た場合、現場任せの部分最適を追認したがゆえに放置されてきた問題です。このほか、我が国の強みである「高品質」についても、現場任せの組織体制が品質偽装問題を起こしたといえるでしょう。
こういった部分最適を追認する組織では、あらゆるものがつながることによって価値が生まれる時代に、かえって弱みになりかねません。したがって、現場のカイゼン活動をスピーディーに反映・実装し、タイムリーに社内横断的に情報共有され、全体最適が図れる仕組みの構築に取り組むことが重要です。その土台があってこそ、製造業のサービス化をはじめとするビジネスモデルの変革に取り組めるのです。
ですので、過去のコラム「変革の時代、今こそ求められるITモダナイゼーション」でも紹介したように、組織や業務の見直しと合わせて、基幹システムの刷新から始めてみてはどうでしょうか。
遠回りにみえても、結果的に中小製造業がConnetcted Industriesを推進する一番の近道かもしれません。
今回のものづくり白書が一貫して訴えているのは、人材不足の危機感と、Connected Industriesを推進するあらゆる業務のデジタル化と利活用、バリューチェーン全体を見据えたビジネスモデルの変革です。特に人材不足が喫緊の課題である中小製造業こそITとの協働は不可欠であり、これからの時代を見据えて、すぐにでも動き出しましょう。
弊社では中小企業の生産性向上に寄与するITツールを多数取り揃えていますので、お気軽にご相談ください。