昨今、紙での取引をやめて、EDIやEC、電子契約などを利用した デジタル取引 に移行する企業が増えていますが、デジタル取引を実現するためには、単にペーパーレス化するだけではなく、業界ごとの商習慣に対応できるかという点も考慮しなくてはなりません。製造業においても、他の業界には無いような情報種やドキュメント、帳票のやり取りがあり、それらの商習慣を考慮してデジタル取引の導入を進めなければなりません。そこで今回は、製造業がデジタル取引を導入する上で考慮すべき商習慣について考えます。もちろん、一口に製造業といっても様々な業種業態があるので一概には述べられませんが、考慮すべきポイントの参考として役立てていただければ幸いです。
業界に関わらず、取引のデジタル化でよくフォーカスされるのは、受発注や請求ではないでしょうか。製造業においても、受発注や請求は取引の起点と終点になる重要なフローであり、注文書や請求書のデジタル化を進めている企業が多く見受けられます。しかし、製造業では受発注、請求以外にもやり取りされる情報種がいくつもあり、それらも包括的にデジタル化することができれば、より大きな業務効率化が見込めます。
まずは、発注の前段階を考えてみます。一定の製品を継続的に大量生産するようなリピート生産の製造業の場合、フォーキャスト(中長期的な需要見込み)や内示情報で発注量を前もって共有することで取引をスムーズにし、納期遅延などを防ぎます。また、都度受注して製造するような個別受注生産であれば、都度仕入先と見積依頼・見積回答のやり取りを行い、単価や納期の調整を図ります。
発注後においては、在庫管理や得意先への納期遵守のために納期管理が重要となるので、仕入先から納期回答を返してもらうなど、納期調整のやり取りが発生します。加えて、外注先に資材等を支給して加工を依頼するようなケースでは、支給品に関するやり取りも必要です。
納品のタイミングでは、発注元の荷受け準備や在庫管理のため、仕入先が予定通りモノを出荷したことを報告するケースもあります。その後、発注元にモノが納品されると、受入れ・検品を行って仕入計上し、その仕入(検収)情報を仕入先に送付して、仕入先で請求予定と突合する場合もあります。そのほか、仕入先から請求書を受け取る代わりに、発注元が月末などのタイミングで締め処理を行い、買掛明細(支払明細)情報として仕入先に送るケースもあります。
以上のように製造業でやり取りされる情報種を例示しましたが、企業によっては他にも様々な情報がやり取りされている場合があります。それらの情報を別々の仕組みでデジタル化してしまうと多画面問題が発生し、効率化につながらないのは容易に想像できます。したがって、製造業では一連の取引を一気通貫してデジタル化することが推奨されます。
製造業での企業間取引では多くの情報種がやり取りされていますが、それらの情報に紐づけてドキュメントの受け渡しも行われるので、電子取引を導入する上では各種ドキュメントの取り扱いも考慮する必要があります。例えば、外注加工先との見積のやり取りでは、見積依頼と合わせて図面や仕様書などの設計に関わるドキュメントを外注先に展開する場合が多くあり、納品時にはモノに添付する納品書や現品票などの出荷伝票が必要となります。また、モノの品質を証明するドキュメントをやり取りする場合もあり、鋼材メーカーなどが発行するミルシートがその代表例です。
これらのドキュメントを取引情報とは別の方法(郵送やFAX、メールなど)でやり取りするとなると、当然送付の手間を削減できません。また、伝票番号や品番などで取引情報と紐づけるにしても、その管理が煩雑であることは間違いありません。製造業の企業間取引をデジタル化するためには、取引情報と合わせてドキュメントをどのように展開するかという点も考慮すべきでしょう。
製造業では、発注から納品まで長期にわたる長納期品が存在します。個別生産品(船舶や大型工作機械など)は、製造リードタイムが年単位になることも多く、納期が長く不確定になります。製造進捗によって納期変動が生じやすいので、都度納期のやり取りを行う必要があります。また、外的要因でサプライチェーンが影響を受け、結果的に長納期になってしまうケースもあります。最近では、新型コロナウイルスのパンデミック、ウクライナ紛争による物流停滞などによって半導体不足が加速し、半導体を利用している電子部品などの長納期化が問題になっています。サプライチェーンリスクとその対応策については、過去のコラムもご参照ください。
納期の遵守は自社の信頼性にも直結する重要な要素で、納期の遅れは関連する会社全体のスケジュールに影響を及ぼします。また、適切な納期管理がされていないと、自社の生産余力を大幅に超えた無理な生産を強いられることにもなり、品質悪化などのトラブルにもつながります。納期調整は従来、電話やメールでのやり取りが一般的ですが、管理やコミュニケーションの手間が問題になりがちです。精度の高い納期管理を行うためにも、取引のデジタル化と合わせて納期調整の効率化も検討すべきです。
自社で工場を持たず、製造や加工を外注するファブレス生産の企業をはじめ、外注が多い企業では「渡り外注」を行っているケースが少なくありません。渡り外注の定義や呼び方は企業によって多少違いがありますが、主には外注先で工程が完了した後、発注元に納品するのではなく、次の工程を請け負う別の外注先に直送支給することを指します。渡り外注では、モノが直接外注先を渡っていくため、発注元ではモノがどこの外注先にあるのか、予定通り入出荷されているのかなどを管理することが難しくなります。渡り外注において、出荷や納品に関する情報を電子的にやり取りできれば、リアルタイムにモノの動きが管理できるようになります。電子取引を活用した外注渡りに進捗管理については、過去のコラムでご紹介しているのでご参考ください。
出荷の際は、納品書や現品票などの出荷伝票を納品物につけて出荷しますが、業界によっては伝票様式が標準化されている場合もあります。業界標準伝票の代表例としては、電子機器・電子部品業界の「EIAJ標準伝票」が有名です。納品書や現物に貼り付けるラベル(Dラベル)のフォーマットがJEITA(電子情報技術産業協会)によって標準化されています。そのほか、各⾃動⾞メーカーの部品調達においては「JAMA・JAPIA EDI 標準帳票」といわれる納品書・現品票が運用されています。また、スーパーマーケットやホームセンターなどの流通業界では「チェーンストア統一伝票」、物流業界では物流センターで用いられる標準ラベルとして「PDラベル・SCMラベル」が運用されています。
デジタル取引を導入したとしても、実際にモノが動く製造業では、現物に付ける出荷伝票は引き続き必要になるので、出荷伝票の運用についての検討は欠かせません。
製造業では、ロット番号やシリアルナンバーと呼ばれる番号を管理・運用している企業が多く存在します。ロット番号とは、同じ部品や材料で、同じ場所、同じタイミングで作られた製品群に付けられる番号です。シリアルナンバーとは、製品や部品の一つ一つに割り当てられる番号のことです。これらの番号は製品のトレーサビリティや在庫管理に利用されています。製品の不良が発覚した場合、ロット番号やシリアルナンバーを追跡することで、不良品の特定や不良原因の調査を迅速に行うことができ、市場に出回ってしまった不良品の回収もスムーズに行えます。時間の経過で劣化するモノであれば、ロット番号毎の有効期限を設定することで、不良在庫が発生しないように管理することができます。ロット番号は、発注元、仕入先のいずれかが発番することになりますが、仕入先が発番している場合、仕入先が管理しているロット番号を発注元も利用すれば、トレーサビリティが容易になります。
納品情報と合わせて、仕入先とロット番号やシリアルナンバーの情報をやり取りできれば、サプライチェーン全体のトレーサビリティ向上につながるでしょう。
同じ製品でも、自社が管理している品番と取引先が管理している品番が異なるケースがあります。その場合、受発注のやり取りを例に考えると、バイヤーがサプライヤー品番に変換してから発注する、あるいはサプライヤーが受注後に自社品番に変換してから自社システムに取り込むなど、品番を変換する必要が出てきます。この品番の変換がバイヤー/サプライヤー間で認識が異なると、納品間違い、請求時の違算などにつながってしまいます。
デジタル取引ツールによっては、品番変換のマスター機能を装備して、取引先へデータを送信する際に自動で品番変換できるようなものもあります。デジタル取引を導入する際は、自社品番と取引先品番が異なる場合、どのタイミングでどのように品番を変換するか検討することが重要です。
今回は、製造業でデジタル取引を導入する上で、考慮すべき商習慣について考えました。デジタル取引導入の目的は単なるペーパーレス化ではなく、業務効率化や生産性向上であるべきです。今回ご紹介した7つ以外にも、取引先との在庫状況や製造進捗の共有、BCP対策などデジタル化によって効率化が見込めるポイントはあります。今一度、自社の商習慣ややり取りすべき情報を見直し、自社に適合して生産性向上に繋がるようなデジタル取引の実現を目指しましょう。
弊社では、製造業に最適なクラウド型EDIサービス『EXtelligence EDIFAS』をご提供しています。受発注はもちろんのこと、生産計画や見積、出荷、支給、検収など、製造業が必要とする一連の取引情報をデータでやり取りすることが可能です。電子帳簿保存法にも対応し、経済産業省、中小企業庁が推進するEDI規格「中小企業共通EDI」に準拠したサービスです。企業間取引を一気通貫で電子化したいお客様は、是非EDIFASをご検討ください。
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