以前、日本版Industry4.0として、「コネクテッドインダストリーズ」を紹介しました。
実は、中国でも国を挙げた取り組みとして「中国製造2025(Made in China 2025)」が2015年5月に発表されました。今回は、中国製造2025とはどのようなものなのか、そして、現状どうなっているのかをまとめたいと思います。
中華人民共和国は2049年に建国100年を迎えます。中国製造2025は、中国の建国100周年までに「世界の製造強国」のトップ級になることを目標に掲げた取り組みです。中国は「世界の工場」として安い労働力を集中させ発展を続け、20年ほど前から身の回りのあらゆるものに「Made in China」という表記を見かけるようになりました。しかし、中国が豊かになり、物価や人件費が急騰し、アジアの周りの国が発展してくるとその状況は変わり始め、最近では、「Made in Vietnam」や「Made in India」という表記が多くなりました。こうした変化を受けて、中国においても従来通りの安価な労働力に頼った労働集約型の製造業モデルではなく、付加価値が高く、生産性の高いモデルを模索する必要が出てきました。その具体的な計画として発表されたのが、中国製造2025です。
中国製造2025では、5つの基本方針と10個の重点分野を設定し、3段階で世界の製造業のトップクラスに立つことを目指しています。
「『中国製造 2025』の公布に関する国務院の通知の全訳」を基に作成
基本方針や、3つの段階についてはこちらの記事で分かりやすく解説されています。
「『中国製造2025』とは何か? 中国版インダストリー4.0による製造改革の可能性と課題」
また、こちらの株式会社富士通総研がまとめているレポートも非常によく分析されていて参考になります。
「産業高度化を狙う『中国製造2025』を読む」
中国製造2025はどのような点で、Industry4.0やIndustrial Internet、コネクテッドインダストリーズと違うのでしょうか。特徴は大きく2点です。
まず、約30年後の2049年を目標としたかなり長期的な計画だという点です。Industry4.0はそもそもHIGH-TECH STRATEGY 2020 ACTION PLANというドイツ政府の施策の1つですし (INDUSTRIE 4.0 : SMART MANUFACTURING FOR THE FUTURE)、アメリカのIndustrial Internetも2025年や2030年を見据えた考え方です(Industrial Internet : Pushing the Boundaries of Minds and Machines)。中国製造2025がいかに大きな計画かということが分かります。
Industry4.0やIndustrial Internetでは、モノとインターネットをつなげて、新たな製造の在り方や製品の在り方を模索する取り組みです。もちろん、中国製造2025にも中国の強みであるネット産業を活かして、情報技術と製造業の融合を目指す部分もあります。しかし、短期的にみると、まずは生産の効率化や自動化(FA:ファクトリーオートメーション)など、既にドイツやアメリカ、そして日本でも十分に実践されていることも計画に含まれています。
このような大きな目標を掲げて実施されている中国製造2025ですが、計画や方針がより具体的になり、仕組みの整備や実証検証が推進されているようです。
まず、重点分野での技術面の指標として「『中国製造2025』重点分野技術ロードマップ(《中国制造 2025》重点领域技术路线图)」が国家製造業強国建設戦略諮問委員会より2015年の10月に公表されています。また、中国製造2025で目指す「スマート製造」のモデルプロジェクトも2015年の早期より実施されており、2015年から2017年の3年間で約200のプロジェクトが実施されており、2018年も約100プロジェクトを実施するようです(China to expand smart manufacturing pilot program xinhuanews<2018年5月28日閲覧>)。さらに、2017年には各分野での実施ガイドラインを定めた「1+X」が公開され、中国全土への展開を図っています。(「中国、『中国製造2025』実施ガイド『1+X』を制定」日系XTECH )。
スマート製造というと、ドイツのIndustry4.0がイメージされると思いますが、中国とドイツのつながりも大きくなりつつあります。実際に、SAPと華為技術(ファーウェイ)の提携が強化されたり(「Huawei and SAP Jointly Launch Full Series of Solutions for SAP HANA」SAPホームページ )、シーメンスと中国の鉄鋼メーカーの宝鋼集団(Baosteel)が業務提携を発表しています(「Siemens and Baosteel to jointly drive forward Industrie 4.0 for intelligent manufacturing」シーメンスホームページ )。このような提携を筆頭に、他にも様々なドイツ系企業と中国系企業が提携を進めています。
日本でも中国製造2025とうまく連携する事例が出てきています。まず、三菱電機が、グループ会社の三菱電機(中国)有限公司と三菱電機自動化(中国)有限公司が、中国政府直轄の研究所である機械工業儀器儀表綜合技術経済研究所(以下、ITEI)と、「中国製造2025」の実現に向けた協力関係を強化するため、智能製造(スマートファクトリー)の標準化推進に関する戦略的パートナーシップを7月9日に締結すると発表しました(三菱電機ホームページ 「中国・機械工業儀器儀表綜合技術経済研究所と戦略的パートナーシップを締結」)。このパートナーシップを通して、三菱電機としては「ITEIとの関係強化を図る他、中国製造2025の標準化の動きに対する影響力を強めたい考え」を持っているようです(「中国製造2025にe-F@ctoryを、三菱電機が中国政府直轄組織とスマート工場で提携」 MONOist)。
さらに、富士通も2018年3月に富士通の現地法人(富士通(中国)信息系統)と中国のスマートシティーソリューションを提供する国有大手企業の上海儀電(集団)(INESA)と共同出資会社「上海儀電智能科技(儀電智能科技)」を設立しています(「中国で合弁会社を設立――富士通」 週刊BCN)。今回の合弁会社の設立は両社の2015年からのスマート製造分野での協力の結実となりました。上記記事によると、「製造の最適化や工場効率化、きめ細かい製造管理によるコスト削減を目指す。中国でのスマート製造分野の業界標準の確立と模範企業になることも目標とし、「中国製造2025」の実現に貢献する方針」とのことです。
日本企業としても、中国製造2025が生み出す需要やチャンスにうまく乗れるかどうかが一つの大きな分かれ目になりそうです。
2018年の7月に入り、中国とアメリカの間で関税の引き上げ合いが起こっています。まさに「米中貿易戦争」の様相を呈していると言えるでしょう。そして、この「米中貿易戦争」を一過性のものではなく、アメリカによる中国製造2025の阻止が目的だとする見方もあります。対中政策で意見の割れるトランプ大統領の側近達も中国製造2025の脅威については共通認識を持っているようです(「中国への関税発動、アメリカの真の狙いは「中国製造2025」計画の阻止だ」)。2017年には中国からアメリカへの輸出額は5000億米ドルを超えていること、さらに、中国製造2025の実現に不可欠な電子部品への関税が引き上げられることを考慮すれば、アメリカからの関税引き上げによる中国製造2025への影響は小さくないでしょう。中国としては、いかにうまくアメリカと付き合っていくかが、中国製造2025の実現への一つのポイントとなるでしょう。
中国の製造業はまだ「量的」な強さから脱却できておらず、いわばインダストリー2.0レベルですが、建国100年に向けて国家一丸となり、とてつもないスピードで中国製造2025の実現に向けて進んでいます。別の記事で取り上げたような電子部品の不足が助長されるおそれもあります(『電子部品の調達競争を「EDI」で勝ち抜く!』)。日本でも昨年、コネクテッドインダストリーズが発表され、やっと今年からいくつかの施策が打ち出されたところです。日本の製造業が世界で戦っていくためには、コネクテッドインダストリーズへの理解を深め、その中で自社がどのような戦略を取るかしっかり検討し、積極的な取り組みを行っていくことが必要ではないでしょうか。
中国製造2025の全文は「『中国製造 2025』の公布に関する国務院の通知の全訳」に和訳されたものが公開されています。また、原文は「国务院关于印发《中国制造2025》的通知」になります。
参考資料
「進化し続ける『世界の工場』」(日立グループホームページ 日立評論)