ITモダナイゼーションとは、古いIT資産を最新技術に対応させて近代化を図ることをいいます。例えば、販売管理システムや生産管理システムなどの基幹業務システムの刷新、それらのインフラ刷新などが当たります。
ITモダナイゼーションは特に目新しいキーワードではありませんでしたが、2015年頃から、その重要性が急速に認知され始めています。今回はその背景と、業務システムのITモダナイゼーションについて、その手法やポイントをご紹介します。
ITモダナイゼーションは次のような背景により注目されています。
弊社においても『Factory-ONE 電脳工場』の新規導入やバージョンアップを検討されるお客様がここ数年かなり増加していますが、そのきっかけとして最も多いのがソフトウェアやハードウェアのサポート停止です。MicrosoftのWindows 7 とWindows Server 2008 の延長サポートが2020年1月14日に終了し、Windows XP延長サポート終了のときと同じく、この「2020年問題」についても極めて大きな混乱が予想されているため、サポート停止を機に業務システムの見直しを行う企業が多くあります。
AI、IoT、ブロックチェーンなどさまざまなIT技術が登場し、爆発的に普及しています。中小企業においても有効に活用したいと考える企業が増えていますが、これらの技術を活用したソリューションを部分的に利用するだけに留まっているのが実状です。さらなる活用のために、企業経営の中心である業務システムと密接に連携することを考えた場合、古いITシステムが弊害となるため、モダナイゼーションが必要となってくるのです。
コネクテッドインダストリーズに代表される潮流により、企業のビジネスモデルは変化の真っ只中にいます。弊社のお客様である製造業では、マス・カスタマイゼーションやサービス化への変革の取り組みが加速しており、従来の業務運用を想定したシステムではその変革に対応できず、情報基盤の再構築が急務となっています。
こういった背景の一方で、古いITシステム(レガシーシステム)を利用されている企業がまだ数多くあります。少しデータは古いですが、下記の統計では特に業務の根幹をなす、開発・設計、調達、生産・サービス提供、物流、販売といった分野において、まだシステム構築の予定がない企業が半分以上を占めているようです。
(出典:経済産業省「情報処理実態調査報告書 平成25年調査関係資料」)
もっとも、多くの企業は多額の投資をしたITシステムをできるだけ長く使いたいと考えますので致し方ない面もあります。しかし、先述の背景から、ITモダナイゼーションの国内市場規模を約1兆円と推定する見方もあり、ITモダナイゼーション市場は今後拡大していくものと考えられます。
では、ITモダナイゼーションを進めるにはどういった手法があるのでしょうか。
ITモダナイゼーションにはさまざまな手法がありますが、ここでは代表的な3つを挙げます。
既存のスクラッチやパッケージの現行レガシーシステムから新パッケージへ移行する手法です。既存のパッケージシステムをバージョンアップすることも含まれます。新システムの導入となりますのでコストは掛かりますが、環境変化に伴う自社業務の見直し、抜本的な改革に有効です。
単純コンバージョンに代表される、古い開発言語を新しい開発言語に書き換える手法です(COBOL⇒java、VB6⇒VB.NETなど)。既存機能・仕様はそのままに新しい開発言語に移行することで、リプレースと比較してコストを抑えることができます。弊社のFactory-ONE 電脳工場ユーザーでもカスタマイズボリュームが大きいお客様の場合は、バージョンアップをする際に単純コンバージョンを選択肢に入れることがあります。
サーバやOS、ミドルウェアといったITインフラの刷新や仮想化対応をする手法です。既存システムの延命処置として検討されることが多いですが、保守切れに対応でき、最もコストが掛からないので選択肢に挙がりやすい手法です。最近では、コスト面の低減や可用性を高めるために、クラウドの利用が顕著です。システムをクラウドに置き換えれば、BCP対策にもつながります。
それぞれの手法は一長一短ありますので、自社の経営環境と合わせてどの手法を選択するかよく検討する必要があります。どの手法においてもコストはそれなりに掛かりますが、最近ではITモダナイゼーションを支援するソリューションが多く出てきています。例えば、高額なRDBMS*であるOracleからの脱却を考える場合、通常全く別のRDBMSを利用しているシステムへのリプレースを考えなければなりません。しかし、最近ではOracleと互換性があり且つ安価なTibero(日本ティーマックスソフト社)というRDBMSが注目を集めており、既存システムへの影響を抑え、モダナイゼーションに掛かるコストを低減することが可能となっています。
*RDBMS(Relational Database Management System):リレーショナルデータベースを管理するためのソフトウェアの総称
先述のとおり、ITモダナイゼーションはさまざまな手法があり、自社の経営環境に合わせて柔軟に取り組める環境にあります。しかし、ITツールは使ってこそ価値があるものであり、いかにシステムやインフラが近代化しても、それを使う側も変化しなければ意味がありません。特に中小企業では、そもそも業務運用がついてこずシステムを十分に使いこなせていないケースが多いため、ITモダナイゼーションに取り組む際には、BPR*とともに実施することが重要です。
*BPR(Business Process Re-engineering):既存の業務内容や業務フロー、組織構造、ビジネスルールを抜本的に再設計(業務改革)すること
そういった意味では、中小企業では業務の変革と合わせてシステムを見直す、リプレースの手法が適していると考えられます。
最後に、ITモダナイゼーションを検討する上で最も重要なことは、企業が目指す目標やビジョンを明確にすることです。特に、変化の激しいコネクテッドインダストリーズなどの潮流と、自社がどのように足並みを揃えていくのかよく考えて、ITモダナイゼーションの手法を選択しなければなりません。
ともすれば、ITモダナイゼーションはコストばかり掛かるネガティブなイメージに捉えられがちです。しかし、ITモダナイゼーションをきっかけに、自社のビジョンを明確にしてその道筋を立てるというポジティブな考え方で早期に手を打てる企業こそが、今後生き残っていくのではないでしょうか。
弊社でもシステムのリプレースのご相談を受付けていますので、お気軽にお問い合わせください。