2016年11月末に可決・成立した税制改正関連法により、2023年10月に実施される予定となった「 インボイス方式(適格請求書等保存方式) 」ですが、みなさんインボイス方式がどういったものかご存知でしょうか?
インボイスというと、海外取引をされている方にとっては馴染み深い、貿易業務に不可欠な通関手続きの重要な書類を思い浮かべますが、ここでいうインボイスも、請求書や納品書に消費税率と消費税額が記載されているものとされており、類似しています。
インボイス方式とは、簡単にいうと、課税事業者が発行するインボイス(請求書や納品書)に記載された税額のみを控除することができる、「仕入税額控除」の方式をいいます。
今回は、そのインボイス方式により現行の制度と何が変わるか、事業者やITベンダーにどのような影響があるか解説します。
まずは、インボイス方式を導入することになった背景について触れておきたいと思います。
現在、日本では消費税額の納付計算には「帳簿保存方式」が採用されており、取引の相手方が発行した請求書等の客観的証拠書類の保存を仕入税額控除の要件としています。
仕入税額控除とは、事業者が預かった消費税額から負担した消費税額を差し引くことをいいます。
例)商品仕入 10,000円(消費税:800円)
商品売上 15,000円(消費税:1,200円)
仕入税額控除 1,200円-800円=(納付税額:400円)
この仕入税額控除というのがポイントで、上述の帳簿保存方式からインボイス方式へ移行する背景として、主に次の2点が挙げられます。
①軽減税率への対応
帳簿保存方式では請求書等に適用税率・税額を記載することは義務付けられていません。というのも、現在、日本では全品目一律で消費税率が適用されています。
そのため、単純に仕入れ、売り上げが分かれば、その額に消費税率を乗じて消費税額を簡単に計算できるわけです。
しかし、2018年10月15日に政府が決定した、2019年10月の消費増税と合わせて施行される予定の「軽減税率制度」では、商品ごとに税率が異なります。この場合、仕入税額控除額を計算するためには、商品ごとに適用税率・税額が分かる書類がなければ、不正や記載ミスが発生する恐れがあると考えられています。
②益税の排除
「益税」とは顧客が支払った消費税のうち、納税されずに合法的に事業者の手元に残る部分をいいます。益税が発生する要因のひとつとして、中小事業者の納税事務負担を軽減するための「事業者免税点制度」が挙げられます。
事業者免税点制度とは、一定の要件を満たすと消費税を納税する義務が免除され「免税事業者」になれる制度をいいます。免税事業者は消費税の納税義務が免除されますが、顧客からは消費税を受け取っていますので、この消費税額は免除事業者の益税になってしまいます。また、課税事業者同様、免税事業者から仕入れる場合も、消費税法上はその金額には消費税が含まれているとみなして消費税納税額を計算します。本来なら免税事業者からの仕入にかかる消費税は0円で計算されなければおかしいのですが、これにより、仕入税額控除額が実際より多くなり、益税が発生することになります。
上述のような背景に対応するインボイス方式とはどういう制度でしょうか?
財務省のウェブサイトに記載されている内容をまとめると、インボイス制度の概要は次のようなものになります。
1 課税事業者は相手方から求められた場合「インボイス」の発行が義務付けられており、また、自ら発行した「インボイス」の副本の保存が義務付けられている。
2 「インボイス」に事業者登録番号(後述)・軽減税率の対象品目がある場合はその旨・適用税率・税額の記載が義務付けられている。
3 免税事業者は「インボイス」を発行できない。したがって、免税事業者からの仕入れについて仕入税額控除ができない。
注)「インボイス」とは、適用税率や税額など法定されている記載事項が記載された書類。欧州においては、免税事業者と区別するため、課税事業者に固有の番号を付与してその記載も義務付けているが、「インボイス」の様式まで特定されているものではない。
参考:財務省ウェブサイト(「適格請求書等保存方式の導入」)
具体的には次のようなインボイスを発行することになります。
出典:国税庁ウェブサイト 消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式が導入されます(リーフレット)(平成30年4月)
(http://www.nta.go.jp)
インボイス方式では請求書等に明細ごとの適用税率・税額が義務付けられるため、一つの取引内容が明確になることで不正がしにくくなり、軽減税率が適用された場合の対策として有効です。
また、インボイスは課税事業者しか発行できません。課税事業者に対する独自の登録番号(事業者登録番号)が発番され、免税事業者と区別されることになります。(適格請求書発行事業者登録制度)したがって、免税事業者を特定し、仕入税額控除の対象外にすることが可能となり、先述の免税事業者による益税問題が根本的に解決できるとの見方です。
たとえば、免税事業者が以下の通り益税を得ているとします。
例)免税事業者の益税
商品仕入 8,000円( 消費税: 800円)※課税事業者からの仕入
商品売上 11,000円(内消費税:1,000円)※消費税を上乗せして販売
1,000円- 800円= 200円(益税) ※200円は納税しなくて良い
課税事業者が免税事業者から仕入れる場合、インボイス制度の施行により、
次の単純な例では課税事業者の納付税額が3倍増えることになります。
例)免税事業者から商品仕入(インボイス施行前)
商品仕入 11,000円(内消費税:1,000円)※仕入税額控除の対象とできる
商品売上 15,000円( 消費税:1,500円)
1,500円-1,000円=500円(納付税額)
免税事業者からの商品仕入(インボイス施行後)
商品仕入 11,000円( 消費税:0円))※仕入税額控除の対象外
商品売上 15,000円( 消費税:1,500円)
1,500円-0円=1,500円(納付税額)
要は本来国に納税するべきお金が事業者の懐に貯まってしまうのを避けたいわけですね。
課税事業者側としては免税事業者から仕入れると税負担が大きくなるため、仕入控除ができる課税事業者との取引を推進することになると予想されます。
したがって、免税事業者は課税事業者へ切り替えるかどうかの選択に迫られることになるでしょう。
しかし、一斉にインボイス方式へ切り替えるのは混乱をきたすことから、経過処置が設けられることになっています。増税、及び軽減税率が導入される2019年10月から、インボイス方式が導入される2023年10月までの4年間は、「区分記載請求書等保存方式」が適用されます。区分記載請求書等保存方式では、課税事業者と免税事業者の区別はされません。
そのため、請求書等に登録番号の記載は求められませんが、軽減税率に対応するため、現行制度での請求書等への記載事項に加えて、以下の事項の記載が必要になります。
出典:国税庁ウェブサイト 消費税の軽減税率制度が実施されます(平成28年4月)(平成28年11月改訂)
(http://www.nta.go.jp)
その後、2023年10月より本格的に適格請求書等保存方式(インボイス制度)が適用されます。
出典:財務省ウェブサイト(「適格請求書等保存方式の導入」)
インボイス方式や経過処置の区分記載請求書等保存方式に変わることにより、事務作業が増えることは確実です。
例えば、次のようなことが考えられます。
1)インボイスは発行者、受領者双方で保存する必要があるため管理の手間が増える
2)仕入が発生する度に、課税事業者のインボイスと、免税事業者の請求書を仕分ける作業が増える
3)●●一式といった表現で商品をまとめて記載をしていたのが、商品ごとに分けなければならないため、請求書を発行するシステムの入力作業が増える
顧客にシステムを提供しているITベンダーにとっても無関係ではいられません。
請求書などを発行する基幹システムや会計システム、そして、請求データの送受信に関わるEDIシステムなど影響範囲は多岐にわたります。
具体的には商品ごとの税率管理、取引先ごとの課税/免税の識別、登録番号の管理といったマスタ機能の追加、請求書の様式変更(税率、税額、登録番号などの記載)、各入力画面での税額入力制御などが必要となります。
自社のシステムを利用しているユーザからの問い合わせが殺到するのは必至でしょう。
事実、当社にも早くも軽減税率、インボイス方式の対応について問い合わせが増えてきています。
インボイス方式による事務作業の増加に、電子帳簿保存法にも対応するペーパーレス取引(EDI)が効果的です。
こちらのコラムもぜひご覧ください。
免税事業者の排除に繋がるなど、インボイス方式の導入は未だに賛否両論あるものの、税の公正負担という観点から、このまま導入される可能性は極めて高いと考えられます。
情報収集を怠らず早めに準備し、混乱を避けましょう。
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