コラム「製造業が注目すべき2018年ITトレンド6選」でも紹介した「デジタルツイン」が急速に注目を集めています。デジタルツインとは、製品や製造環境など実在するモノと同じデータ(デジタル上の双子)をリアルタイムにコンピュータ上で忠実に再現する仕組みのことで、ドイツが推進しているIndustory4.0のCPS(Cyber-physical systems)とほぼ同義と捉えられます。デジタルツインの世界市場規模は2023年には約160億ドルまで拡大すると予想する見方もあり、特にモノを作る製造業はその最先端に位置づけられるでしょう。
今回のコラムでは、製造業におけるデジタルツインの先進的な事例と今後の可能性について紹介したいと思います。
2003年にミシガン大学のMichael Grieves教授がデジタルツインの概念を提唱してから、ここにきて急速に注目が集まっている背景として、技術的な側面が大きいと考えられます。まず、IoTの普及によりデータ収集が容易になりました。あらゆるモノからセンサーを通じてデータを得ることができるようになったため、シミュレーション精度を高めることが可能になったのです。センサーから情報を得られない場合でも、機械学習による画像認識によりデータを得ることもできます。そして、ネットワークの高速化により現実世界で得られた情報は瞬時にデジタル空間にフィードバックされ、さらに、コラム「VR(仮想現実)で変わる製造業の5つの業務!」で紹介したように、VR/AR/MR技術の進化によって、より現実世界に近いデジタル空間の実現も可能になったのです。
これらのことから、冒頭に述べた世界市場規模拡大の可能性の示唆、Gartnerが発表した2017年の戦略的技術トレンドのトップ10に入るなど、デジタルツインの今後に注目が集まっていると考えられます。
現実世界の情報を用いてデジタル空間でシミュレーションを行う概念は以前からあり、デジタルツインの概念自体は目新しいものではありません。
製品の耐熱性や耐衝撃性などテストの分野では、CAE(Computer Aided Engineering)と呼ばれるツールでコンピュータ上のシミュレーションを行い、製品の性能や強度予測、障害発生時の原因解明に利用されています。
しかし、デジタルツインがそういった従来のシミュレーションと異なる点として、次のようなことが挙げられます。
では、デジタルツインは製造業でどのように活用されているのでしょうか。
大きくは製造プロセスの改善活用と、顧客への納入後のサービス活用が挙げられます。
たとえば、シーメンスでは金属積層造形技術(AM)との連携によるものづくりにデジタルツインを活用しています。樹脂成形に利用される金型は数千万円もする場合がありますが、何度も利用することで金型が欠けてしまう場合があるそうです。その修繕作業の良し悪しでコストに大きく影響が出るので、事前にデジタルツインによるシミュレーションを行い、その結果を実際の工作機械に反映することで、効率的かつ高品質な修繕が可能になるのです。
Kaeser Kompressorenでは、デジタルツインにより顧客に納品した製品のコンプレッサー(圧縮空気システム)の運転データがリアルタイムに仮想的に表示され、モニタリングが可能となっています。これにより、不具合を事前に検知し発生前に防止することができるとしています。
日本では、コラム『「製造業のサービス化」の最前線を追う』で紹介したコマツも、設備の計測データの推移がリアルタイムで分かり、3Dモデルを連動させて視覚的に確認できるスマート工場基盤「KOM-MICS」というサービスの提供に取り組んでいます。「製造業のサービス化」に関する取り組みについては下記のコラムをご参照ください。
VR技術との融合という点では、オートデスクが「Autodesk University Las Vegas 2017」で、産業ロボットをVR上に複製し、遠隔操作するデモンストレーションを披露しています。
人間が直接行けない場所での遠隔操作や熟練者の技術をロボットで再現し、暗黙知を形式知に変える働きも期待されます。
製造業という括りから少し離れますが、2014年からリー・シェンロン首相が「バーチャル・シンガポール」を推進しています。これは、建築物、地形・景観、交通網などの国土全体を3Dモデル化し、人口の増加や都市がどのように発展していくかをユーザーへ視覚的に示し、災害の影響や日照時間などもシミュレーションできるようにすることを目指しています。3Dモデルの実現には、街中などあらゆる場所に設置されているセンサーデータ、公的機関の統計データ、スマホの位置情報などから収集されるデータなどをリアルタイムに収集します。シンガポールは人口密度が高く、かつ、都市開発が盛んで渋滞や建設時の騒音が問題になっており、バーチャル・シンガポールを実現することで、輸送効率の向上と都市開発における工事の効率化を図ることが可能になるとしています。
ここまで来ると、もはやゲーム「シムシティ」の世界が現実で行われようとしているといえますね。しかもこのバーチャル・シンガポール、2018年中に完成予定とのことで、ユーザーとして利用できる日はそう遠くありません。
デジタルツインの可能性は極めて多岐にわたります。日本が推進するSociety5.0においてもフィジカル空間とデジタル空間の融合を目指しており、デジタルツインの概念が中核のひとつになることは間違いありません。今はまだ大企業中心の取り組みですが、近い将来、CADと同じレベルで製造業にとって身近になるかもしれませんので、今後の動向に注目されてはいかがでしょうか。
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