2018年3月、経済産業省商務情報政策局・製造産業局より「Connected Industries 経済対策について」(経済産業省ウェブサイト)という資料が公表されました。
昨年、ドイツで開催された国際情報通信技術見本市CeBITで発表された日本版Industory4.0「Connected Industries(コネクテッドインダストリーズ)」ですが、今年に入って具体的な政府による支援策が見えてきました。
今回のコラムではコネクテッドインダストリーズを後押しするための施策をざっくりと紹介したいと思います。
※コネクテッドインダストリーズの概要については、以前のコラム「日本版インダストリー4.0『コネクテッドインダストリーズ』は中小企業が主役?」をご覧ください。
コネクテッドインダストリーズのキーワードは「つながる」です。日本には様々な現場のデータ(リアルデータ)が存在しているが、それらが適切に繋がっていないという課題意識のもと、「つながる」というキーワードが設定されました。産業データ活用促進事業は、産業の現場に存在するリアルデータを活用するための仕組み作りを支援する事業です。予算額は18億円で、約20件の事業を支援する予定です。補助金額の範囲は数千万から最大3億円の定額補助になります。
詳しくは、コラム「コネクテッドインダストリーズ推進の柱となる『産業データ活用促進事業』とは?」をご覧ください。
前項「産業データ活用促進事業」の支援対象となっているような事業者に対する認定制度も検討されています。認定を受けると、保険枠の拡大や中小企業基盤機構からの債務保証といった金融上の支援や、行政機関や公共機関から公的データの提供を受けられるという優遇措置を受けることができます。こちらは、生産性革命新法の一部として、現在開かれている通常国会に提出されています。
IoTによって今まで取得できていなかった社内や社外のデータを取得し、活用するための投資に対して特別償却や税額控除を認める税制、いわゆる「コネクテッド・インダストリーズ税制」も制定されました。具体的には、センサーやロボット、そして、データの分析や連携に必要なシステム関連設備への投資に対して優遇措置が取られます。
AIシステム開発の国際競争力を高めるために、リアルデータをもつ大手・中堅企業と、技術に秀でたAIベンチャーのマッチングを支援する事業です。具体的には、日系工作機械大手のファナックとAIベンチャーPreferred Networksの協業のようなモデルを創出することを目指す事業となります。概念実証(PoC)にとどまらず、本格導入まで支援することを目指します。
人工知能(AI)やロボットなどの技術革新を受けて、ソフトウェアメーカーとハードウェアメーカーの境界があいまいになってきています。コラム「2017年のITトレンド振り返り5選!」で取り上げたスマートスピーカーが好例です。昨年、ソフトウェアメーカーであるLINEが自社AI「Clova」を搭載した「Clova WAVE」を発売しました。このようにソフトウェアメーカーがハードウェア領域に進出する際には様々なハードルが存在します。そういったハードルを回避し、ものづくりに関するアイデアの実現をサポートするための「スタートアップファクトリー」の構築を金銭面からバックアップするのが「スタートアップファクトリー構築支援事業」です。中国では深センがスタートアップの開発支援で有名ですが、日本でも同じような環境の構築を目指しているようです。
以上のように、経済産業省関連予算がコネクテッドインダストリーズを意識したものとなっています。2018年度ものづくり補助金では、コネクテッドインダストリーズのコンセプトである「つながる」を意識した企業間データ活用型という類型が新設され、政府や経済産業省としてもSociety5.0という大きな目標に向けて、本格的な動きを開始したといえるでしょう。2017年に総選挙が行われたばかりですので、大きな方針は数年程度続くことが想定されます。限られた資本を集中的に投下し、ドイツやアメリカ、中国などからの遅れを取り戻したいという考えもあるでしょう。
このような大きな流れの中で重要になってくるのは、それぞれの会社の自主性だと考えられます。今回の産業データ活用促進事業でも、対象になるデータの範囲や、補助対象事業の抽象度が高く設定されています。変化の激しい社会の中で、政府や経済産業省自体も明確な答えを持っているわけではありません。実際、政府も様々な立場の方々と議論をしていきながら、日本のあるべき姿を模索しているようです<参考:「コネクテッドインダストリーズを語り合う」(METI Journal)>。変わりゆく時代の中で自社がどのような立場で競争を生き抜くのか、しっかりと考え、自分達で具体的な方向性を決めていくことが求められると言えるでしょう。