2019年6月のFacebookによる新たな暗号通貨「Libra(リブラ)」の発行計画の公表は、多くの人に衝撃を与えました。ホワイトペーパーによると、「Libra」は発生したトランザクション(取引)の正当性を承認するアルゴリズムとしてLibraBFTというコンセンサスアルゴリズムを採用しており、他の多くのブロックチェーンが採用するproof of workと比較して少ない消費電力で低レイテンシと高い処理能力を可能にするとしています。これは既存のブロックチェーンを使った仮想通貨とは異なる新しい取り組みになっていくでしょう。
ブロックチェーンを使った新しい取り組みは今後も出てくると予測されます。今回はブロックチェーン技術が解決し得る社会問題と、ブロックチェーン技術の課題について紹介したいと思います。さらにブロックチェーンとAIを組み合わせた技術についても記述します。
ブロックチェーン技術が解決し得る社会問題にはさまざまありますが、その一つに飲食店の無断キャンセル問題が挙げられます。スマートフォンの普及や予約サービスの簡易化・多様化により、飲食店の予約は従来よりも非常に手軽になりました。しかし一方で、予約の無断キャンセルが問題になっており、その損害額は2千億円に上ると報道されています。(2020年1月30日閲覧 日本経済新聞電子版:無断キャンセル被害2千億円、飲食店に対策サービス続々)
ブロックチェーン技術を用いると、会員情報から過去に無断キャンセルをしているかどうかを正確に把握できます。これにより、無断キャンセルの頻度が高い顧客に対しては事前決済を必須化する、インターネットでの予約を一時的に拒否するなどの対策を取ることが可能になります。
ブロックチェーン技術を用いることで、あらゆる情報を透明化することもできます。
過去のコラム「ブロックチェーン×製造業 サプライチェーン改革!」でも述べたように、ブロックチェーンの改ざん困難性をうまく利用すると、エンドユーザーは商品がどこで製造され、どこを経由して手元に届いたのかを確認することが可能です。メーカー側も自社が調達する材料や部品の流入経路を明確にできるとともに、製品の生産工程をエンドユーザーに対して正確に知らせ、品質の高さをアピールすることができるでしょう。
度々問題となる文書の紛失や改ざんにも、ブロックチェーンの特性を利用して対処することが可能です。選挙においても、票数の改ざんができなくなり、より透明性の高い選挙を実施できるとされています。
しかし、残念ながらブロックチェーン技術は万能ではありません。ドン・タプスコットとアレックス・タプスコットは著書(※1)の中で、以下の10個のブロックチェーンの課題について解説しています。
※1ドン・タプスコット,アレックス・タプスコット(2016)『ブロックチェーン・レボリューション -ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか』(高橋璃子訳)ダイヤモンド社
その中でも最近話題となっている「エネルギーの過剰な消費」、「ブロックチェーンが人間の雇用を奪う」という2つの課題について紹介します。
仮想通貨のビットコインでは、プルーフ・オブ・ワークシステム(proof of work、PoW)が採用されており、送金が発生した場合、そのデータは他の人に承認されることによってブロックチェーンのネットワークに登録されます。承認とは、ブロックチェーンにデータを書き込むためのハッシュを計算することです。ブロックチェーンではこのハッシュを解く作業に大量の時間と電力を消費することが知られており、その際の電力消費量は1国の電力消費量に匹敵します。それに伴って二酸化炭素も多大に排出されることが注目されています。
ただし、AIやIoTの利用においても多大な電力消費が報告されており、今後、仮想通貨取引がデファクトスタンダード化して銀行やATMが衰退していった場合、これらの設備での消費電力が削減されるため、将来的には問題視することではないとの意見もあります。冒頭で紹介した「Libra」のような新しい取り組みも、課題解決につながるでしょう。
「AIが人間の雇用を奪う」という言葉を耳にする人も多いと思いますが、ブロックチェーンについても同様に、雇用を奪うのではないかとの懸念があります。例えば、ブロックチェーン技術を用いると、これまでより簡単に書籍や音楽、コンピュータプログラムの著作権の可用性を担保しつつ安全に管理することが可能です。しかし、それに伴って著作物を管理する人の雇用を奪ってしまう可能性もあります。通貨取引構造の変化による銀行の衰退も、雇用の消失という面では問題となります。
しかし、これまでの技術イノベーションは、一時的に雇用を不安定にすることがあっても、結果的にはより多くの雇用を生んできました。ブロックチェーンの発展においても雇用が継続的に減るというのは皮相浅薄な判断だといえるでしょう。
以前、コラム「AIのブラックボックス問題の解決に期待が高まるXAI(説明可能なAI)とは」で取り上げたように、AIはどういった過程や理由で不良品を「これは不良品である」と判断したのかを説明しない、ブラックボックス化の問題を抱えています。ブロックチェーン技術をAIの学習と併用し、AIが最終的な結果(モデル)を出力するまでにどのような学習データを基にしたのか、どのような数式やアルゴリズムを用いたのかを時系列で正確に保存することができます。それによりモデルの判断根拠を説明し、AIによる決定の信頼性を担保することが可能になると期待されています。
ブロックチェーン技術を活用することによってAIはより安全に使用され、今後より一層発達していくでしょう。仮想通貨や情報管理だけでなく、AIという適用範囲の広いその技術と組み合わさることで、ブロックチェーンの技術もさらに発展していくことは必至です。