ブロックチェーンが実現する「見える化」と「DX」

ブロックチェーンが実現する「見える化」と「DX」

 以前、コラム『ブロックチェーン×製造業 サプライチェーン改革!』で、ブロックチェーン構築ソフトウェア「mijin」を使用したトレーサビリティシステムについて取り上げました。mijinは、「NEM(ネム)」という仮想通貨を使用しています。仮想通貨というと、「ビットコイン」を思い浮かべる人が多いかと思いますが、実はビットコインには、取引速度が遅い、手数料が高いなどの課題があります。NEMはこの課題を解決するために、2015年にリリースされました。それからわずか5年後の2020年12月には、NEMの処理能力や安全性を向上させた新しいブロックチェーン「Symbol」がリリース予定となっており、ブロックチェーン技術は日々進歩しています。
 
 そこで今回は、改めてブロックチェーンを使用したサプライチェーンやトレーサビリティ、それらを活用したDXについて考えていきます。

 

ブロックチェーンが取引の可視性と信頼性を高める

 新型コロナウイルス感染症により訪れたwithコロナ時代。これからはあらゆる業務において、現場に人がいない・行けないことが前提となってきます。そのため、ブロックチェーンのもつ「可視性」や「信頼性」を活用したサービスの果たす役割が大きくなっていくと考えられます。

 日本IBMブロックチェーン事業部長の高田充康氏は、ブロックチェーンビジネスに関する説明会で、事業例として、食品トレーサビリティ、国際貿易、サプライヤー契約の3つを取り上げています(ZDNet Japan「新型コロナ渦でブロックチェーンの重要性を説くIBM」2020年7月15日閲覧)。

 説明会ではサプライヤー契約の事例として、IBMと、ブロックチェーンのコンサルタント企業であるChainyardにより発表されたサプライヤー契約をサポートするブロックチェーンネットワーク「Trust Your Supplier」が紹介されました。従来、新規のサプライヤー(仕入先)獲得には何ヶ月も要することが一般的でしたが、このサービスではブロックチェーン上に記録されたサプライヤーの取引履歴を使用し、信頼できるパートナーを数日で見つけることが可能となるそうです。サプライヤーの品質確認や評価といった作業が大幅に短縮され、原料確保コストの削減に繋がります。

 

ブロックチェーンはあらゆる事業で利用される

 ブロックチェーンが積極的に利用されている例はそのほかにもあります。

 近年、メールや専用システムを経由し、電子データとして注文書や契約書をやり取りする機会が増加傾向にありますが、電子取引では取引先との信頼関係が非常に重視されます。信頼関係の構築が十分でない取引相手には、代金を支払わない、悪意のあるいたずらである、などのリスクがあるためです。ブロックチェーンを活用すると、インターネット上でも安全に取引を行うことができるようになります。また取引手順をプログラム化し、条件確認、決済などの一連の流れを全て自動化することもできます。

 Amazonは「Dash Replenishment Service(DRS)」という、消耗品を自動再発注するサービスを提供しています。このサービスはAmazonが仲介者(中央管理者)となって、取引のリスクを引き受けます。一方、ケイアイスター不動産株式会社はブロックチェーン技術を使用し、モデルハウスの無人化を実現しました。モデルハウスへの来場予約時に鍵データを発行し、担当者がその場にいなくても見学が行えるという仕組みです(BLOCKCHAIN-BUSINESS「ブロックチェーン技術を活用した無人モデルハウス【事例㊴】」2020年9月3日閲覧)。ブロックチェーンを活用することにより、Amazonのような中央管理者がいなくてもルールに沿って取引を行うことが可能となる例です。

 新型コロナウイルス関連のトレーサビリティにもブロックチェーンが活用されています。中国・山東省の山東財経大学では、学生や教職員の健康状態をリアルタイムに共有し、感染拡大を防止する取り組みを行っています。また、中国・雄安新区ではコロナ関連の寄付金の流れを追跡して不正を監視する、ブロックチェーンベースの寄付追跡プラットフォームが開発されました。これにより、医療品が必要とされる場所に正確に届くようになると期待されています(NODEE by COINPOST「新型コロナウイルスに対抗するための、世界各国のブロックチェーン活用事例」2020年 7月 15日閲覧)。

 

ブロックチェーンを使用したDX

 ブロックチェーンを活用したモノの移動の可視化や手続きの自動化は、あらゆる取引の安全性を高め、コストを削減し、様々な事業におけるDXを推進するでしょう。

※DXとは
コラム『DX(デジタルトランスフォーメーション)の第一歩』にも記載されているように、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念です。一般にはビジネス用語としては、「企業がテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」という意味合いで使われることが多いです。

 ブロックチェーン が推進するDXにはどのようなものがあるでしょうか。

 
●ブロックチェーン×DXの例①

 企業から企業、そして消費者への商品の流れを、ブロックチェーンを用いて管理することができます。冒頭で紹介したmijinのサービスの一つに、ジビエのトレーサビリティがあります。ジビエのように狩猟により食用とされた野生鳥獣の食肉は、寄生虫やウイルスなどの危険性があり、出どころや時期、加工過程に対する信頼性が特に重要になります。ブロックチェーンを使用すると、調達から消費者のもとへ届くまでの経路を可視化することができ、ジビエ食肉の安全性を保証することができます。

 このようにヒトやモノの動きをブロックチェーンで可視化することによって、製造業においても、指定していた経路とは異なる経路で送られてきた原料や製品の受け取りを制限するなど、仕入時のミスや確認コストを削減できる可能性があります。

 
●ブロックチェーン×DXの例②

 ポイントサービスは従来、ポイント発行企業を中心とする複数のポイント提携企業が、消費者へのポイント発行とポイント利用のサービスを提供していました。しかし、ブロックチェーンを用いると、サービスへの参加者全員が自由にポイントを受け渡しすることができるようになるかもしれません。現在、広く個人間でポイントの受け渡しができるサービスは存在していませんが、ブロックチェーンを使用したポイントサービスは、既に運用が始まっています。株式会社ふくおかフィナンシャルグループのブロックチェーン技術を用いたポイントサービス「mybank+」は、このサービス専用のポイントを主要な共通ポイントへ交換することや、特定の貯蓄預金口座にキャッシュバックすることが可能となっています(仮想通貨Watch「ふくおかFG、ブロックチェーン活用の地域ポイントサービスを本格稼働開始」2020年8月3日閲覧)。

 今後、仮想通貨やポイントだけでなく、様々なシーンに対応したブロックチェーンベースの取引サービスが誕生し、企業間で自由に製品や設備を取引することが可能となるかもしれません。

 ブロックチェーンを活用したデジタル化は急速に発展しています。今回ご紹介した以外にも、医療、物流、商品管理などでブロックチェーンの利用が注目されています。製造業においてもブロックチェーンを用いることで、部品や製品の在庫、製造工程を正確かつ安全に管理することが可能となるでしょう。

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