約束手形の利用廃止!?背景や見通しについて

約束手形の利用廃止!?背景や見通しについて

 昨年2月、経済産業省が2026年をめどに 約束手形 の利用を廃止する方針を示し、話題になりました。今回のコラムでは、2026年の 約束手形 の利用廃止について、背景や課題、今後の見通しについて解説します。

 

約束手形 の歴史

 日々の業務の中で、支払猶予、資金繰りの負担を軽減する手段として約束手形を利用している企業は多いのではないでしょうか。約束手形の起源は江戸時代まで遡り、明治時代以降に法整備が進められ、現代の支払手段としての運用が確立されてきました。特に高度経済成長期には、企業の資金需要が旺盛だった中で、銀行融資の代替手段として約束手形での取引が大きな役割を果たしました。
 しかし1990年代に入ると、企業の資金繰りが改善されたり、資金調達手段や決済手段が多様化したことで、手形の発行残高は減少に転じるようになりました。実際に支払手形の残高は、ここ30年間で急激に減少しています。1990年度の約107兆円をピークとして、現在は約25兆円にまでとなりました。

※出典:中小企業庁「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会報告書」

 このような中で、今年2月に開かれた経済産業省等の省庁横断会議にて、約束手形廃止に向けた方針が確認され話題を呼んでいます。政府によると、約束手形に代わる手段として、インターネットバンキングや電子記録債権の利用を推奨しています。

 

廃止の背景と課題

 今回の方針の背景には、約束手形が引き起こす中小企業の資金繰りの悪化が挙げられます。通常、約束手形は現金化でに100日程度かかり、中小企業の資金繰りの悪化の要因となっています。モノを売ったとしても、入金されるのが100日後では、その前に現金がショートし、倒産する可能性があるからです。現金の支払サイトが平均で約50日間であることを考えると、約束手形のサイトは長いことがわかります。新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う経済不況も、中小企業の資金繰りの悪化を助長しています。
 また、手形支払時の割引料などの手数料も約束手形の問題となっています。というのも、一般的には利息や割引料は振出人から支払われず、受取人が負担するケースが大半です。そして、手数料の取り扱いも振出人が有利な構造となっています。例えば、振出人が負担する用紙交付手数料は66円から220円程度であるのに対して、受取人が負担する取立手数料は770円から880円と、かなりの差があることがわかります。この結果、受取人の資金繰りをさらに悪化させるのみならず、振出人にとっては約束手形が魅力的な手段になっているといえるでしょう。
 さらに、紙という点も大きな問題です。下図の通り、紙という特性上、発行、保管、流通、取立という一連の手続きにおいて、様々なコストとリスクが存在します。例えば、振出側での封入作業といったコスト、受取側での紛失リスクなど、紙であるために余計な工数やリスクを負わなければなりません。

※出典:中小企業庁「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会報告書」

 

必要なこと

 では、約束手形の廃止について、何が必要になるのでしょうか。まずは、業界全体やサプライチェーン全体での取り組みが求められます。約束手形を廃止するにあたって、1社だけの取り組みではどうにもなりません。「取引先が約束手形を利用するから、仕方なく利用している」という声が聞かれるように、業界やサプライチェーン全体で約束手形の利用の廃止に取り組まない限りは、使い続けられることが予想されます。また、仮に1社が約束手形を廃止したとしても、周りの協力がなければその1社に資金繰りの負担が集中する結果となってしまいます。
 さらに、電子的手段の利便性を向上させる必要もあります。インターネットバンキングや電子記録債権など、電子的手段が約束手形の代替手段として注目を集めていますが、現実は利用料が高額であるなど課題も多く、普及していません。
 さらに、支払サイトの短縮化も同時に進める必要があります。約束手形の利用を廃止すればそれで良いというわけではなく、約束手形が引き起こす中小企業の資金繰りの悪化を改善できなければ意味がありません。インターネットバンキングや電子記録債権に切り替えるのはもちろんのこと、支払サイトの短縮化も同時に実施する必要があるでしょう。

 

今後の見通し

 上記のように、2026年の約束手形の利用廃止に向けて、既存の商慣習を大きく変える必要があります。政府が各業種、団体に向けて自主行動計画の策定を要請しており、具体的な段取りやスケジュール等が策定される見込みです。また、既存の約束手形に関して、2024年までに決済期限が60日以上の約束手形を規制する方針も打ち出されています。
 しかし、コロナが少し収まっていたとはいえ、資金繰りに厳しい企業はなおも存在します。政府の要請に強制力はないため、どこまで約束手形の流通を減らすことができるかは、正直不透明といえるでしょう。2026年に向けて一歩目を踏み出したばかりです。約束手形を普段利用している企業は、今後も随時動向を確認しましょう。

Share this...
Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn