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令和元年 2019年版「中小企業白書」のテーマは?製造業の観点で解説

 2018年版「中小企業白書」は、人手不足に焦点を当て中小企業・小規模事業者へ生産性向上に向けたヒントを提供することをテーマとした内容となっていました。
令和時代を迎えた2019年の中小企業白書では、人口減少や少子高齢化という問題を乗り越えるため「事業承継」と、構造変化に対応する中小企業の「自己変革」をテーマとしています。
前回のコラム(2018年版「中小企業白書」からみる製造業の生産性革命)同様、今回も製造業の観点から2019年版 中小企業白書のポイントを解説します。前回のコラムはこちらからどうぞ。

2018年版「中小企業白書」からみる製造業の生産性革命

 

過去最高水準の景況である一方、製造業の労働生産性は変わらず

 まず全体の概況について、昨年に引き続き過去水準を維持しており、下図の通り回復基調であることが分かります。
 
(出典:経済産業省 中小企業庁 2019年版「中小企業白書」 第1部 平成30年度の中小企業の動向 第1章 中小企業の動向)
 
 そんな中、中小企業数の減少傾向は進んでおり、2014年から2016年の2年の間に中小企業数は約3万社減となっています。それでも過去最高水準の景況を維持している背景として、白書では、存続している企業が付加価値を伸ばすことで、廃業した企業による減少分を上回っていることを挙げています。下図を見ますと、廃業企業によって失われた付加価値額にさほど差は生じていない一方、存続企業が付加価値額を伸ばしていることが分かります。
 
(出典:経済産業省 中小企業庁 2019年版「中小企業白書」 第1部 平成30年度の中小企業の動向 第2章 中小企業の構造分析)
 
 こういった「稼ぐ力」を持った中小企業が増えているのは喜ばしいことですが、他の業種はさておき、製造業という視点でみますと、残念ながら昨年と大きく変わっていません。
下図の通り、一人当たりの労働生産性を見ても、大きな落ち込みはないものの、大企業との差は開く一方なのが実状のようです。
 
(出典:経済産業省 中小企業庁 2019年版「中小企業白書」 第1部 平成30年度の中小企業の動向 第1章 中小企業の動向)
 
 上述の通り、日本の中小製造業の長年の課題である労働生産性向上については、引き続き取り組みが必要といえるでしょう。
 

企業の成長にプラスとなる事業承継。製造業は特に早期の取り組みを

 次に少子高齢化に起因する事業承継問題に焦点を当てます。事業承継に様々な問題があるというのは周知の事実ですが、白書では特に下図の課題を取り上げています。
 
(出典:経済産業省 中小企業庁 2019年版「中小企業白書」「小規模企業白書」概要)
 
 事業承継の形態として、親族内承継が最も割合が多いのですが、親族内承継では無償で引き継ぐことが多く、生前贈与に当たって贈与税の負担が課題になっていると考えられています。白書では、法人向け・個人事業者向けに贈与税や相続税の負担をゼロにする事業承継税制を措置することによって、親族内承継の支援措置は大幅に前進したとしています。
 
 また、今回の白書では、通説とされているより若い世代への事業承継が、特に企業の業績にプラスの影響を与えることを詳しく分析しています。たとえば下図では、30~40代以下の新経営者の場合、事業承継の翌年から5年後までの間、事業承継していない企業と比較して売上成長率を押し上げる効果が顕著であることを示しています。
 
(出典:経済産業省 中小企業庁 2019年版「中小企業白書」 第2部 経営者の世代交代 第1章 経営資源の引き継ぎ)
 
 若い世代への事業承継が望ましい一方、事業承継には時間が掛かります。下図の通り、後継者側も経営者になるために必要な準備期間を5年以上と回答した者が約5割を占め、それなりの準備期間が必要であるといえます。
 
(出典:経済産業省 中小企業庁 2019年版「中小企業白書」 第2部 経営者の世代交代 第2章 次世代経営者の活躍)
 
 特に製造業では、サプライヤーも含めた取引先との関係構築や生産設備の引き継ぎなど、他業種と比較して後継者育成・事業承継に時間が掛かります。
上述の通り時間が掛かることを念頭に、早期に取り組むことが重要といえるでしょう。
 

デジタル化への取り組みが新たなチャンスを生み出す

 平成の30年間で経済・社会のありようが大きく変化し、その変化は令和時代により一層加速すると考えられます。
白書では、人口減少、デジタル化、グローバル化といった経済・社会構造の変化の中で、企業規模が小さいことによる有利も不利も解消されつつあり、「デジタル化」「グローバル化」が大きな機会になる可能性を示しています。製造業においては、先に触れた労働生産性の問題もさることながら、第4次産業革命の潮流の中、経営の在り方を大きく変える可能性があるAIやIoTの活用が期待されています。
しかし、中小企業では下図の通り、IoT、AIに対しては消極的なのが実状のようです。
 
(出典:経済産業省 中小企業庁 2019年版「中小企業白書」「小規模企業白書」概要)
 
 というのも、下図のIoTやAIを導入しない理由で、「導入後のビジネスモデルが不明確」が最も多くある通り、IoTやAIを使って何をしたらいいか分からないことが主な原因といえるでしょう。
 
(出典:経済産業省 中小企業庁 2019年版「中小企業白書」 第3部 中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革 第1章 構造変化への対応)
 
 白書の事例では、中小製造業の株式会社ヒバラコーポレーションが、サポイン補助金を利用してAIの活用に取り組んだことを紹介しています。
具体的には、塗装現場での熟練技術者の操作をデータベース化し、そのデータからAI 等を利用することでロボットアームによる操作の再現を実現しました。これにより、塗装現場における熟練者不足の課題解決につながることが期待されています。このような事例からヒントを得て、IoTやAIで何ができるかを知ることが大切といえるでしょう。
 
 このほか、白書ではフィンテックやシェアリングエコノミーの拡大が中小企業のチャンスになると提言しています。シェアリングエコノミーでは、今や設備などの固定資産だけでなく、人手やノウハウまでも対象としたシェアリングサービスが提供されており、人手不足、設備不足が顕著な中小企業でも、低コストでそれらを充足するチャンスが得られるようになってきているのです。
製造業のシェアリングエコノミーについては、こちらのコラムもご覧ください。

製造業にも押し寄せるシェアリングエコノミーの波


 そういったインターネットサービスを上手く活用することも、これからの社会構造の変化の中で求められています。
 

自己変革を進めサプライチェーンにおける自社のポジション確立を

 最後にサプライチェーンにおける中小企業の役割の変化に触れます。
白書では、中小企業を取り巻くステークホルダー(消費者、従業員、社会)の価値観が変化しており、中小企業もこれらの流れにいち早く対応することが重要としています。代表的なものでは、グローバル化の現在、企業の社会的責任に関する取り組みであるCSRの世界的な取り組みとして、「SDGs」や「ESG」に注目が集まっています。

2025年大阪万博の開催目的でも言及された「SDGs」とは?

ESG投資時代、サプライチェーンの一翼を担う中小製造業はチャンス!


 
 海外も含めた大企業がSDGsやESGの取り組みを進める中、そのサプライチェーンの一翼を担う中小企業にも、単に利益を追求するだけではなく、自主的に社会的責任を果たす存在としての役割が求められているのです。しかし、中小企業ではSDGs等はほとんど認知されていないのが実状のようです。
 
(出典:経済産業省 中小企業庁 2019年版「中小企業白書」 第3部 中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革 第1章 構造変化への対応)
 
 また、自然災害が多く発生している昨今、防災・減災対策を進める大企業が増えています。BCPの取り組みは大企業を中心に進められていますが、中小企業ではまだまだ十分ではありません。
 
(出典:経済産業省 中小企業庁 2019年版「中小企業白書」 第3部 中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革 第2章 防災・減災対策)
 
 サプライチェーンの川上の大企業にとっては、重要部品を製造している川下の中小企業が被災すると、サプライチェーンが断絶するリスクがあります。そのため、BCPへの取り組みを進める中小企業の価値が高まっているのです。
このように、サプライチェーンの構造変化は既に始まっており、製造業によくある「ケイレツ」などの安定的取引に甘んじていた中小企業は注意が必要です。
いち早く変化に対応するための「自己変革」を進め、自社のポジションを確保していくことが重要といえるでしょう。それが新たな取引先の開拓にもつながることは間違いありません。

 
 令和時代を迎えましたが、いまだ様々な課題が山積しています。しかし、自己変革による新たな取り組みや工夫次第で、中小企業も大きく飛躍できる時代ともいえます。
社会構造の変化にアンテナを張り、いち早く対応を進めることで競争に打ち克ちましょう。

 
 弊社でも中小企業の生産性向上に寄与するITツールを多数取り揃えていますので、お気軽にご相談ください。

数字で見る国内のRPA事情

 ここ数年、メディアで目にする機会が多くなってきた「RPA(Robotic Process Automation)」。欧米を中心に浸透が始まり、国内では2016年あたりから注目されているツールです。当初は、金融業やサービス業の大企業が導入のメインでしたが、最近は業種を問わず中小企業への展開も増えてきました。こういった国内のRPA事情について様々な数字から見ていきたいと思います。

 

国内のRPA導入社数は5000社を超える

 2016年の7月に一般社団法人日本RPA協会が設立されました。2018年1月の日経xTECHの記事では、導入支援サービスで先行するアビームコンサルティングが2018年末の導入累計1000社という見通しから、国内のRPA導入数は5000社を超えるといわれていました。国内大手であるNTTアドバンステクノロジの「WinActor」は導入企業3000社RPAテクノロジーズの「BizRobo!」は利用企業者数1000社を突破したとの発表を見ると、2019年5月の現時点では5000社という数字は大きく超えていると思われます。
 特に国内RPA製品の登場が多くなった2018年以降から、中小企業での盛り上がりが見えてきました。

中小企業で盛り上がるRPA~小粒な業務を現場主導で スモールスタート ~

アビームコンサルティングの調査結果では、従業員1000人未満の企業からの問い合わせが増加しており、大企業だけでなく中堅以下の企業でもRPAへの関心が高まっていると推察されています。

 

国内のRPA市場規模は2022年に800億円

 矢野研究所の調査では、製品やサービスを含むRPA市場が2022年には800億に達すると予測しています。注目すべきは毎年成長し続けている伸び率と関連サービスの拡大です。RPAは導入までがゴールのシステムではなく、導入後に社員一人一人が自分の仕事を効率化するOA(office automation)ツールです。それをサポートするために、教育やコンサルティング、シナリオ代行開発、スキルを身に着けた専門の人材派遣といったRPAを取り巻くビジネスの広がりが、市場が急成長する大きな推進力になっているのです。
 世界3大コンサルティング企業の一つであるマッキンゼー・アンド・カンパニーは、2025年までに全世界で1億人以上の知的労働者、もしくは1/3の仕事がRPAによって置き換わると推測しています。また、米国の調査機関TMRの調査によると、2024年には約1.9兆円の市場規模まで拡大するといわれており、今まさに全世界の働き方がRPAによって変わろうとしています。

 

574万人の雇用と222兆円の国内総生産

 経済産業省が2017年5月30日に発表した「新産業構造ビジョン」では、AIやRPAを活用した付加価値・生産性向上策を実施しない場合、実施した場合と比較して、2030年度には国内の労働人口の減少分よりはるかに多い、574万人の雇用と222兆円の国内総生産(GDP)が減少すると試算されています。活用した方が雇用は増加するという数字です。
 例えば 教育ビジネスを主とするMAIAは、女性の働き方を変える「RPA女子プロジェクト」をスタートしました。(THE SANKEI NEWS記事)
 家事や育児、介護など、望む形で働くことが難しかった人たちが、多様な環境で活躍できる新しい働き方になります。このように、RPAは既存の定型業務を自動化することで労働力不足を解決するとともに、それ以上にホワイトカラーの新しい仕事を創造していくのです。

 

RPAはClass1からClass2へ

 RPAによる適用範囲や自動化レベルをClass1~Class3といった数値で表すことがあります。国内のRPAはClass1であるルーチンワークの自動化から、Class2となるAIを搭載した一部非定型業務へと発展していこうとしています。つまり、既存の定型業務を自動化する目的で導入が広まっているRPAは、その先にAIの技術が加わることによって、より人間に近い例外業務や意思決定までも代行するような自律アシスタントへと進化していきます。

 

 AIが全人類の知性を超えるといわれるシンギュラリティが2045年。未来になればロボットが勝手に働いてくれるという事はありません。人間が予測できない未来に向けて、AIやRPAと向き合い、仕事のパートナーとして働く新しい時代の企業へと変化していくということを、本気で考えるタイミングになりました。25年先の私たちの働き方はどのように変化しているでしょうか。